空き家が発生するメカニズムは、固定資産税の存在も一因といえる。固定資産税は住宅用地を特例的に減免している。敷地面積が200平方メートル以下の住宅用地は、固定資産税が6分の1。200平方メートルを超える住宅用地は、3分の1に軽減される。住宅用地には、こうした特例が適用される。家屋を解体するには費用がかかり、更地にすれば税金も高くなる。家さえ建っていれば固定資産税が軽減されるので、所有者は自費を投じてまで使い道のない家屋を解体する必要がなかった。
現在、長らく使用されていない空き家は特定空家とされて、住宅用地特例は適用されなくなった。しかし、特定空家に認定されるまでには歳月を要する。こうした税制の間隙が空き家を生み出し、それが時間とともに所有者不明の土地を増加させることにもつながった。そして、それは巡り巡って行政の懐事情にも影響を与えるまでになっている。
固定資産税の廃止も議論に
所有者不明土地問題研究会の報告書で特に衝撃的だったのが、ある自治体では固定資産税の納税通知書が年間で約2000件も戻されるうえ、公示送達(相手の居所不明による手続き)が約430件、課税保留件数が約180件にものぼることだった。要するに、役所側でも不動産の所有者を把握できておらず、固定資産税が徴収できない状態になっているのだ。そして、その割合は今後も増加すると予測されている。
固定資産税の徴収ができないことは、市町村にとっても大きな損失だ。また、市町村が固定資産税を取り逃す以上に、土地を有効活用できない経済損失もバカにならない。同研究会は土地を有効活用できないことによる経済的損失を、2016年度単年でも約1800億円、17年~40年までの累積で約6兆円と試算している。
これらの報告に基づき、政府や地方自治体も土地の相続放棄をできる仕組みづくりや、政府や地方自治体が土地を受け取り活用する方策の検討を始めた。しかし、相続放棄されるような土地は利用価値が低い。
「利用価値が低い要因は、そもそも地方都市で人口が少ないといったこともあるが、都心部でも不整形地だったり、建物が建てられないような規制があったりするので売ることは容易ではない。管理コストがかかるので、行政も土地の相続放棄を安易に認めるわけにはいかない」(前出・区職員)
行政側は、こうした放棄される土地が増殖することを懸念し、それが東京や大阪といった都心部にも拡大することを恐れる。そうした相続放棄の土地が増殖することを未然に防止する策として、同研究会は固定資産税の廃止を提言している。
しかし、固定資産税の廃止は簡単な道のりではない。前述したように固定資産税は市町村の基幹税でもあり、固定資産税が廃止されれば市町村は立ち行かなくなる。しかし、固定資産税に固執すれば、市町村はもっと大きな痛手を負う可能性すらある。
政府内では廃止や代替財源などについて、議論が水面下で始められようとしている。納税者が注視しなければならないのは、固定資産税を廃止することを口実に、所得税や住民税、消費税が増税されてしまうことだ。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)