都心環状線の廃止論
現状、地元の中央区や東京都などは、日本橋上空の首都高を地下に移設することを目指しているが、さらに大胆な案も浮上している。それが、首都高の都心環状線の廃止論だ。
日本橋上空に架かる首都高は都心環状線の一部だが、かつて首都高・都心環状線が竣工された頃は、高速道路ネットワークが今ほど整備されていなかった。また、下道の国道や都道なども交通網として脆弱だった。そのため、多くの自動車が都心環状線を利用した。利用する自動車は、東京を目的地として通行している自動車ばかりではない。たとえば、神奈川方面から茨城方面へと抜ける場合、どうしても都心環状線を通らざるを得なかった。
今では中央環状線・外環道・圏央道といった3つの環状高速道路が整備されている。3環状は全線が完成しているわけではないが、都心環状線を使うよりも時間短縮効果があるので、東京を目的地としない自動車の多くは3環状を使って東京を迂回する。また、一般国道や都道も車線増設などによって使いやすくなっているので、都心環状線の存在意義は小さくなっている。
「都心環状線の廃止という意見は地元からも出ているのは承知していますが、仮に廃止した場合、渋滞がひどくなる可能性もあります。それを踏まえると、行政から廃止計画を口にすることは難しいのです。また、都心環状線は中央区だけではなく、千代田区や港区も走っているので、中央区だけで判断できるものでもありません」(前出・中央区職員)
しかし、すでに国土交通省内でも都心環状線の廃止シミュレーションが進められており、東京都も廃止に向けた動きを見せつつある。つまり、首都高・都心環状線の廃止論は荒唐無稽な計画という代物でもないのだ。
日本の道路行政に影響も
さらに、昨今の社会情勢も都心環状線廃止論の追い風になっている。人々の自動車離れが進み、東京23区に在住する20~30代にはマイカーを所有していない人も多い。移動手段は鉄道で、必要な時のみカーシェアリングやレンタカーを利用する。自動車免許を返納する高齢者も少しずつ増加しており、今後、東京を走る自動車は減少することは確実だ。自動車の通行量が減少すれば、首都高の利用率は下がる。わざわざ巨額な税金を投入してまで首都高を再整備する必要性は薄い。
これまで、日本橋上空を覆う都心環状線の移設問題は東京の一地域、日本橋界隈の話とされてきたが、そうした見方はもはや時代後れになりつつある。その廃止論争は、単に日本橋の住民たちが空を取り戻すという戦いではない。これまで日本の道路行政や公共工事は、とにかく「必要だからつくる」の一点張りで建設に邁進してきた。もし廃止されれば、不必要な高速道路を廃止、もしくは建設しないという潮流が生まれるだろう。
つまり、日本橋の首都高問題は、日本の道路行政、そして公共事業の今後を大きく変える問題でもある。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)