今、韓国の済州島を舞台に「在日コリアンのコミュニティをつくろう」という動きが進められている。「済州在日村プロジェクト」だ。
背景には、在日コリアンをめぐる厳しい現実がある。マイノリティである彼らは、日本社会のなかで生きづらさを感じるのが常だという。そうした事情が反映されてか、在日コリアンは精神疾患を生じやすく、自殺率は一般の日本人と比べて2~10倍という見方もある。
自らも在日コリアンで発起人の金床憲氏(歴史研究家・絵本作家)は「在日の子どもたちは危機的な状況に置かれている。日本社会で否定され、非難を受け、我慢を強いられてきた。子どもたちが臨時避難できる場所をつくりたい」と語る。
同プロジェクトでは、次世代の若者が言語・文化などの民族的素養を学べる学校や宿泊施設を建設する。そこに、日本の高校を卒業した在日コリアンの子弟200人あまりを受け入れ、韓国語を学びながら地域の農家で農作業を手伝うなど、「国際交流村」としての機能も狙う。この異例のプロジェクトについて、金氏に話を聞いた。
在日コリアンの自殺率は一般日本人の10倍?
――今、在日コリアンをめぐる状況はどのようなものなのでしょうか。
金床憲氏(以下、金) 昨年、東洋大学の金泰泳教授が『在日コリアンと精神障害―ライフヒストリーと社会環境的要因』(晃洋書房)を上梓したことで可視化されつつありますが、困難な状況に直面しているにもかかわらず、手をさしのべる人はほとんどいません。そんな現状に危機感を抱き、在日村プロジェクトを提案しました。
日本人は世界のなかでも自殺率が高いといわれますが、同書によると、在日コリアンの自殺率は一般の日本人の約2倍です。これにはいわゆるニューカマーも含まれており、オールドカマーに限定すればもっと高くなるとの見立てで、3~4倍になるかもしれません。
新幹社という出版社の高二三編集長は在日コリアンの文化人として著名ですが、高編集長は「在日コリアンの自殺率は一般の日本人の10倍くらいでは」と推定しています。在日フィリピン人や在日ブラジル人と比較しても、10倍を超えるのではないでしょうか。
在日コリアンには精神疾患も多いとされていますが、特徴は中年になってから発症するケースが多いことです。いろいろな意味で子どもの頃からずっと耐えてきて、50歳を超えると耐えきれなくなるのです。よく、「在日コリアンは怒りやすい」ともいわれますが、人間は我慢を重ねたり抑圧されすぎたりすると怒りっぽくなる傾向にあるのです。金教授によると、心療内科の医師などは保守的な人が多く、必ずしも在日コリアンの治療に前向きではないという事情もあるようです。