――在日コリアンの子どもたちの環境はどうなのでしょうか。
金 テレビでは韓国や北朝鮮の報道が多いです。「韓流ブーム」のように前向きな報道であれば別ですが、マイナスの内容が多いのが実情です。
今は在日コリアンも日本や本国の方と結婚するケースが増えており、約90%を占めています。在日コリアン同士の結婚は約10%で、在日社会も多様化しているといえます。
それにともない、問題も出てきています。たとえば、母が一般の日本人で父が在日コリアンの夫婦が離婚すると、母親は父親のみならず韓国の民族性をも否定することがあり、子どもは心の中で葛藤することになります。在日コリアンの子どもは、学校で常に緊張にさらされています。韓国を擁護するような言動をすれば、相当なバッシングを浴びますから。
そして、物心がついてインターネットを見るようになれば、そこには韓国や朝鮮へのヘイトスピーチがあふれています。思い悩み、逆に韓国や朝鮮を否定する論調の“ネット右翼”になるケースもあるほどです。
韓流ブームの当時はよかったのですが、今は在日コリアンであることをカミングアウトしづらい時代です。出自がばれると、より“日本寄り”の立場に立たないと村八分のような状況になるという恐怖心を抱いている学生も多いです。常に恐怖とプレッシャーにさらされているため、精神疾患になる可能性が高いのです。また、自殺念慮も多いといわれています。
「京大を出たのに、鉄くず屋をやってるんだ」
――在日コリアンが厳しい境遇に置かれる、根本的な問題はなんでしょうか。
金 日本社会のシステムは、マイノリティにとっては過酷です。韓国国籍保有者は、公務員であれば地方公務員の末席にしかなれず、大企業に入社できたとしても出世は望めません。そのため、私の周囲の在日コリアンは外資系企業への就職者が圧倒的に多いです。
安定した職に就きにくいという問題は、昔のほうがひどかったです。以前、コリアンタウンとして知られる大阪・生野の居酒屋で飲んでいたとき、団塊の世代の在日コリアンが「私は京都大学を卒業しているのに、鉄くず屋をやっているんだ」と吐露していましたが、日本社会にはいまだにマイノリティに対する壁があると思います。しかし、そういうことは数値化されないため、差別の実態が理解されにくいのです。
――そこで、在日村プロジェクトを推進しているのですね。
金 私は在日2世ですが、私の世代はいいとして、4世や5世にまで悪い流れが続くのは看過できません。もっと自由で緊急避難的な場所が必要だと考えて、在日村プロジェクトを提案しました。
目的は、まずは次世代の若者が言語・文化などの民族的素養を学べる学校を済州島につくろうというものです。私は、準備実行委員会の発起人を務めています。メンバーは趣旨に賛同した日韓両国の約20名で、建築家や行政書士、教育関係者らです。
朝鮮学校は統廃合が進み、韓国学校も増える余地がなく、在日コリアンの子弟は日本学校に行くしかないのが実情です。外国人の多い大都市圏は理解者が多いのでまだいいのですが、問題は地方です。在日コリアンの子どもたちが追い込まれ、置き去りになっています。