日本体操協会の“女帝”こと塚原千恵子・女子強化本部長と夫で協会副会長の塚原光男氏の“暴力指導”が「週刊文春」(文藝春秋/9月13日号)で報じられた。千恵子氏による往復ビンタや腹蹴りなどがあったという報道が事実とすれば、塚原夫妻が牛耳る体操協会の「たとえオリンピックのためだとしても暴力は断じて許さない。暴力の根絶を徹底していきたい」という主張は一体なんだろうと疑問を感じざるを得ない。
しかも、塚原夫妻のパワハラを告発した宮川紗江選手のコーチだった速見佑斗氏は、指導中に暴力行為を行っていたとして、体操協会から無期限登録抹消処分を受けている。だから、塚原夫妻が“暴力指導”を実際に行っていたとすれば、自分に甘く、他人に厳しい典型なのではないかと疑いたくなる。
もっとも、このように自分のことは棚に上げ、他人の非をめざとく見つけて厳しく対処する人はどこにでもいる。そこで、そういう人の心理を分析したい。
パワハラの根絶を訴える常務がパワハラの常習犯
40代の会社員の男性は、不眠、意欲低下、吐き気などを訴えて私の外来を受診した。事情を尋ねると、最近課長から平社員に降格させられたことがわかった。降格の理由は、遅刻を繰り返す新入社員を注意したところ、その新入社員が上司にパワハラだと訴え、それが認められたことだという。
この上司というのが30代の常務で、社長の息子である。しかも、専務は社長の弟、本部長は社長の娘という典型的な同族企業らしく、社長も専務も高齢のうえ病気がちなので、数年前から実務はほとんど常務が取り仕切っている。ちなみに、遅刻を繰り返していた新入社員は、社長一族の親戚だそうだ。
人事権を握った常務がまずやったのは、高校や大学の同級生、あるいはゴルフやヨットの仲間を会社に入れることだった。おまけに管理職として。もっとも、それほど大きな会社ではなく、ポストの数が限られているので、管理職に就いていた古参の社員を退職や降格に追い込み、その後釜に自分の友人を据えた。退職や降格に追い込む手段が、パワハラ認定であり、管理職クラスは戦々恐々としているようだ。
この会社では、「パワハラは断じて許さない」とマジックで書かれた紙が壁に貼られており、一見パワハラに厳しそうだ。しかし、実際にはパワハラが横行しており、その張本人が先述の常務である。常務は、古参の管理職を「なんでそんなに無能なんだ」と大声で罵倒したり、「あなたにはコストがかかっているんです」という赤字のメールを送りつけたりするという。また、うつで休職していた社員が復職すると、「うつになるのは弱いから。俺なんか絶対ならない」と嘲笑することもあるらしい。
常務をパワハラで告発すれば、普通の会社では認められるだろうが、この会社では誰もそんなことはしない。パワハラ認定をしているのが常務とその取り巻きで構成された調査委員会であり、告発しても無駄だとわかっているからだ。