武雄市が発表している平成26年度の「視察受入状況」を調べてみると、11月13日に「和歌山駅周辺活性化調整会議・事例研究会」の名目で15名参加していることが判明。よって、残り8名は南海電鉄からの参加と考えられるが、旅行命令簿を詳しく分析した図書館関係者が、新たに疑問を呈する。
「添付されている旅程表を見てください。ここに、正規行程のほかに『オプション』の旅程が掲載されていることからすると、旅行業者が『お客様用』に作成したものだと思われますが、その中にRIAの名前も出てきますので、RIAの社員も参加している可能性が高いです」
確かに、旅程表をつぶさに見ていくと、こんな記載が見つかった。
「15:00熊本駅周辺視察 くまもと森都心(RIA様実績視察)他 熊本市あるいはRIA様より事業のご説明をしていただきます」
RIAとは、CCCの旗艦店・代官山蔦屋書店を手掛けたアール・アイ・エー(RIA)のことだ。後に和歌山市民図書館の基本設計から、実施設計、施工監理までを担当することになる設計事務所であり、かつ今回の和歌山市の再開発プロジェクト全体を資金計画からトータルに主導してきたとされる建設コンサルタントでもある。
旅程表に「RIA様」となっているのは、旅行業者がこれを作成したからだろう。では、この視察旅行の主催者は誰なのか。前出の図書館関係者が、こう分析する。
「旅程表を依頼したのは、県・市ではないと思いますので、南海電鉄かRIAでしょう。南海電鉄であればRIAは南海電鉄の委託業者にすぎないので、旅程表に『RIA様』の文字が出てくることはないでしょう。また『熊本市あるいはRIA様』とあって『熊本市様あるいはRIA様』となってはいません。つまり、RIAがお客様=主催者だったと考えるのが自然です」
RIAは、新図書館が入る駅ビルの施主・南海電鉄が和歌山市、和歌山県と話し合う調整会議にも、発足した2014年の早い段階から出席していたことがわかっている。さらに、視察の最後の目的地が、そのRIA自らが手掛けた熊本市駅前の再開発だったことからすれば、出張メンバーにも同社スタッフが加わっていたと考えるのが自然だ。
つまり、和歌山市4名、和歌山県庁3名の行政側から計7名のほか、南海電鉄とRIA側から計8名が参加していることになる。
前出の図書館関係者が、こう推測する。
「大元の起案がなかったのも、出張参加者としてRIAの名前があったから隠したのではないでしょうか」
1400枚の黒塗り資料を見ると、この頃、定例の調整会議に出席していたのは、毎回、南海電鉄から2~3名、RIAから1~2名にすぎない。8名のなかには、視察旅行をアテンドしたCCCスタッフが数名入っていた可能性もある。
いずれにしろ、これだけの大視察団が武雄詣でをしているのは、なんとも異様だ。
武雄市の「視察受入状況」を詳しく見てみると、図書館の視察団は、ほとんどが市議会や商工会議所等の非実務者で、和歌山市のように官民合体した再開発プロジェクトの実施メンバーが大挙して視察するのは異例であることがわかる。
視察の行程についての回答をはぐらかす和歌山市の担当者
以下、和歌山市の担当者との一問一答を紹介する。
――旅程表は、誰がどこから参加したのか、よくわからない。
「旅程表については、フルに参加したバージョンを掲載している。それぞれの人が自分の都合に合わせて参加した」
――添付されているパンフレットは?
「それは個人がネットで調べて書類に添付して決裁を仰いだもの」
――○○さん(和歌山市の担当者)も、参加されたんですよね?
「ちょっと記憶にないです」
――資料に○○さんの名前もありますよ。
「そういえば、参加しましたね」
――「RIA様~」となっている旅程表は、旅行会社が作成したのか。
「旅行会社が作成したものかどうか、わからない。ただ、熊本でRIAの担当者から都市開発の説明は受けました」
――RIAも武雄に一緒に行った?
「記憶にない」
――主催者は、RIAか、それとも南海電鉄か。
「主催者がどこか、記憶にない」
――武雄市では、視察前にCCCと打ち合わせをしたか。
「ちょっと記憶にないです」
――復命書は廃棄されたそうですが、個人のパソコンには残っている?
「いえ、個人のも定期的に削除しています」
――自動的に?
「自分で削除しています。武雄市の写真とかは残っていますが」
――それは、開示請求をしたら、出してもらえるのか。
「いえ、個人のパソコンのデータは公文書ではないので出せません」
――(保存期限のすぎた)データは、自動的に削除?
「決裁した文書については、保存年限がきたら廃棄する」
市当局は、いったい何を隠したいのだろうか。
指定管理者選考会は八百長?
ちなみに、図書館が入居する駅ビルの施主である南海電鉄は、再開発に関して自治体と国の補助金を総額64億円も受け取る予定だ。それにもかかわらず、同社は公募もせずにRIAを設計者に選定している。
RIAとの随意契約の詳細について南海電鉄は、筆者の度重なる公表要請を頑なに拒否している。南海電鉄から詳細な報告を受けている和歌山市も、1400枚の会議資料を97%以上黒塗りで開示したうえ、「詳細は南海電鉄に聞いてほしい」と逃げていて、図書館建設のプロセスは真っ黒なままだ。
このような経緯から、すでに武雄市視察の時点で、和歌山市当局とCCCが「ツタヤ図書館建設」を前提とした打ち合わせをしていた疑いが拭えない。隠蔽していた復命書を暴露された多賀城市での「前科」があるだけに、なおさらだ。
そこで、昨年11月に図書館流通センター(TRC)とCCCが参加して行われた指定管理者選考会は、“八百長”だったのではないかとの疑いすら頭をもたげてくる。ある図書館関係者は、こう話す。
「2014年からの調整会議が始まって早い時期に、すでに県・市・南海電鉄との間で、駅ビルにできる新図書館はCCCでいこうとの大まかな合意ができていたのではないでしょうか。その理由は、集客力のあるツタヤ図書館にすれば、国から湯水のごとく補助金が得られると考えたことが一番大きいと思います」
真偽のほどは定かではないが、64億円もの巨額の補助金を投入されているにもかかわらず、資料の開示を拒み続ければ、疑惑の目を向けられても仕方ないだろう。
さて、次回は、1400枚の黒塗り資料の分析からわかった、再開発プロジェクトの意外な側面について迫っていく。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)