東京五輪開催年、インバウンド客が減少の可能性…中国依存のいびつな「観光大国」の正体
インバウンド客急増の裏に潜む、いびつな構造
だが、本当の課題はもっと根源的な部分にある。
あらためて、図表1を見ていただきたい。インバウンド客急増の裏で、2013~2017年のアウトバウンド客の増加率はわずか2%。これは、今に始まった傾向ではない。2008~2013年の5年間で見ても、9%増にとどまっていた。ちなみに、世界の国際観光需要は2013~2017年が21%増、2008~2013年が18%増。我が国のアウトバウンド観光の伸びが、きわめて低いことがわかるだろう。インとアウトのバランスは、あまりにもいびつである。
インバウンド観光大国であるフランスは、同時にアウトバウンド観光の大国でもある。さらにいえば、長期バカンスが定着しているフランスは国内旅行大国でもある。フランスだけでなく、世界の観光大国はみな同じだ。
ところが、我が国の国内観光、とりわけ宿泊観光は、人ベースでも金ベースでもほとんど伸びていない(図表3)。その一方で、国内宿泊観光の市場規模は、人ベースでインバウンド観光を10倍以上も上回る3億2000万人回、金ベースでは同4倍の約16兆円にのぼる。
観光ビジネスの足腰は、国内観光によって鍛えられる。国内観光が成長して初めて供給のレベルが上がり、インバウンド客に対しても新たな需要を喚起していくことができる。と同時に、アウトバウンド観光が増えることによって入ってきた海外からの情報は、供給の質をさらに向上させる。つまり、インバウンド観光の成長は、アウトバウンド観光と国内観光を加えた3つの輪がバランスよく機能して初めて成立するのだ。
筆者は観光の素人である。だが、素人だからこそ、予測をはるかに超えるインバウンド観光の急伸に目を奪われることなく、事態を冷静に受け止めることができるのかもしれない。
こんないびつな状態でいいのか。この素朴な疑問に答えられないようでは、インバウンド観光の未来は、どう考えても怪しいというしかない。
(文=池田利道/東京23区研究所所長)
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