カネボウ自主回収問題、なぜ拡大?他社美白化粧品も「安全とはいえない」(皮膚科学会)
カネボウ化粧品の自主回収問題が波紋を広げている。
美白有効成分「ロドデノール」が配合されたカネボウの化粧品を使い、「肌がまだらに白くなる」などの症状を訴える利用者が相次いでいるとして、8ブランド・54の対象商品が自主回収に至ったこの問題。7月29日付日本経済新聞電子版記事によれば、親会社の花王が2013年1~6月期(上期)の連結決算で、カネボウ化粧品の自主回収に関連し84億円を損失計上すると発表した。当初見込んでいた50億円より回収費用が膨らみ、上期の純利益は183億円と、予想を7億円下回ったという。
同記事によると、7月19日時点で重い症状を訴えたユーザーが2250人に上るなど、その影響は「想定以上の拡大」(カネボウ)を続けており、治療費や通院に関する交通費などの費用負担は56億円に。加えて、慰謝料は治療が終わったあとに支払うとして上期決算には盛り込んでおらず、さらにカネボウ製品の買い控えの影響も懸念される状況だ。カネボウ単体の利益率は、11年3月期の3%から12年12月期には7%強に上昇するなど改善傾向にあっただけに、アジア事業好調で営業利益を高めている花王の経営にも計算違いが生じそうだ。
すでに多くのメディアが指摘しているように、カネボウが最初に被害相談を受けたのは11年のこと。初動に遅れがあったことは否めず、同社の危機管理体制に対する批判は日増しに高まっていた。7月29日発売の「AERA」(朝日新聞出版/8月5日号)にコメントを寄せた危機管理コンサルタントの田中辰巳氏は、「危機管理で必要な悲観的予測が行われていなかった。自社の化粧品に問題があるのでは、との視点が決定的に欠落していた」と手厳しい。
また同誌は、花王は06年にカネボウを買収したものの、化粧品事業では「花王」と「カネボウ」のブランドが統合されず、独立して存在し続けてきたことに注目。元みずほ総合研究所主席研究員で信州大学教授の真壁昭夫氏は「一つの家に二つの家族が住んでいるようなもの」として、二重構造による「指揮命令系統、情報伝達過程」の違いが危機管理の問題につながっていると分析した。
問題は美白化粧品全体にも広がっている。日本皮膚科学会は今回の症状に対応するために「ロドデノール含有化粧品の安全性に関する特別委員会」を発足。同委員会が7月17日に作成した「皮膚科医向けの診療の手引き」では、「今後美白化粧品の使用を禁止するべきですか」との問いに「他の美白剤で同じ症状が出現するリスクがまったくないとはいえないことを充分に説明し、理解した患者さんの判断に任せることになります」と回答。
また「他の美白製品は大丈夫ですか」との問いにも、「カネボウ化粧品は他社製品に問題が波及することを危惧しており自社製品のみが問題であると報告しています。しかしながら同じ作用機序を有する美白化粧品の安全性についての情報はまったく得られておらず、安全であるとも、危険であるとも言えない状況です」との回答があり、美白化粧品自体の安全性が調査中であるということがうかがえる。
最初の報告があった11年の時点でこのリスクを受け止め、調査を進めることができれば、化粧品業界に対する影響はまた違っただろう。いずれにしても、美白化粧品が多く消費される夏、用法を守り、経過を見つつの利用を呼びかける必要がありそうだ。
(文=blueprint)