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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第37回

盗聴されている!? 新聞業界のドンから追い出し部屋の連中に突然不可解な電話が…

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 「いいですよ。まだ1週間以上先ですね。特に予定はありませんから」
 「よっしゃ、午後6時に東京駅前の五稜(ごりょう)ビル34階の日本料理『吉祥(きっしょう)』に来よってくれや。うまい懐石料理をご馳走するけんのう。話はその時じゃ」

 太郎丸はそれで電話を切ろうとしたので、深井は慌てた。

 「待ってください。吉須さんも来るんですね」
 「もちろんじゃ。3人で飲みよるんじゃわ。お主は電話表に携帯が載っちょらんが、あやつは載っとったけんのう、朝に電話して了解しちょる。お主とは連絡に手間取ってのう、ちょっと手の込みよったことをせざるを得んかったんじゃわ。それで、知人の大学教授というカモフラージュを使いよったんじゃが、吉須君にも今、説明したよって心配せんでええ」
 「それは申し訳ありませんでした」
 「つまらんこと、気にせんでええわ。じゃ、再来週の月曜日午後6時、待っちょるぞ」
 「わかりました」

 電話を切ると、公園内のベンチに座り、タバコに火をつけた。
 「一体、俺と吉須さんの2人に用があるって、なんなんだ」

 太郎丸の意図に全く見当がつかず、苛立ったが、どうにもならなかった。
 「そうだ。吉須さんに電話してみよう」

 深井は吸いかけのタバコをポケット灰皿に押し込むと、背広から手帳を取り出した。手帳に挟んでいたジャナ研職員の名簿を取り出した。吉須の携帯に電話するためだった。

 「吉須です」
 「深井です。ご無沙汰しています。今よろしいですか」
 「おう、深井君か。去年の10月末以来だな」
 「舞ちゃんから、海外から帰ってきたけど、すぐに関西方面に旅行に出たと聞いていますが。もう、関西からも戻っているんですか」
 「ふむ。昨晩、帰ってきた。今は自宅さ。ところで、なんの用だい?」
 「いえ、帰ってきたら、一度、一杯やりたいと思っていたんです。でも…」
 「太郎丸さんのことか」
 「そうなんですよ。やっぱり、吉須さんのところにも電話、あったんですね」
 「あったぞ。再来週月曜日だろ」
 「突然、なんの用ですかね。何か思い当たることありますか」
 「全くないな。大体、資料室に移ってからは会ってもいない。まあ、会ってみてのお楽しみでいいじゃないか。それより、久しぶりに一杯やらないか。どうだね」
 「そうですね。僕も同じこと考えていたんですよ。それで、吉須さんがいつ現れるか、待っていたんですよ。『善は急げ』ですから、今晩、どうですか」
 「『エイブリタイム、OK』と言いたいところだが、今日は自宅でやりたいことがあるんだ。なにせ、世界一周旅行から帰って、すぐに関西に出かけたから、荷物の整理もしていないんだ。来週月曜日でどうだね」
 「いいですよ。どこで、待ち合わせますか」
 「そうだな。一度、資料室に立ち寄りたいから、午後6時前に行くよ。そこで落ち合って出ればいい。舞ちゃんには顔を合わせないで済むよな」
 「ええ、彼女はいつも午後5時半には帰りますから、心配いりませんね」
 「じゃあ、悪いけど、資料室で待っていてくれるか」
 「わかりました」

 電話を切ると、ベンチから立ち上がった。せんさく好きの美舞の疑り深い目つきが浮かんだのだ。もう資料室に戻らないと、美舞に根掘り葉掘り質問攻めに遭いかねないと思った。

 資料室に戻ると、案の定だった。
 「ねえ、どこかの大学教授が深井さんと吉須さんに会いたいんだって」

 自席のブースに向かう深井の後ろから美舞のうれしそうな声が飛んだ。すでに美舞は会長秘書の玲子から、会長の太郎丸と深井のやり取りを聞いていたのだ。

 しかし、深井は直ぐには返事をせず、自席に着くと、パソコンのマウスを動かし、メールをチェックした。そして、回転椅子を美舞の方に向けた。
 「そうなんだよ。日比谷公園で一服している時、電話があった。日本のジャーナリズム史を研究している人だ。でも、すぐに会いたいわけではないようだったな」

 すぐに答えなかったのは、美舞をごまかすにはどんな嘘をつけばいいか、考えたのだ。

 「その人、吉須さんとも連絡とっていたの?」
 「いや、電話しても出ないので、僕が吉須さんに会ったら伝えてくれ、と言われたよ。どうせ、そのうち、彼も資料室に来るだろうから、その時に話すつもりさ。相手も急いでる様子じゃないから、それで間に合うと思ってね」
 「なんだ、そんなことなの。つまんないわ」

 深井の答えはすべて口から出まかせだったが、美舞はがっかりした様子で、疑い深い顔つきになることはなかった。煙に巻く作戦はまんまと成功したわけで、ふたりの会話は自然に途切れた。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

【ご参考:第1部のあらすじ】業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週8月9日(金)掲載予定です。

BusinessJournal編集部

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