江川紹子による考察…【日産ゴーン事件】異様だったメディアの保釈報道が意味すること
翌21日朝刊各紙の一面には、以下のような見出しが躍った。
〈ゴーン前会長 きょうにも保釈〉(東京新聞)
〈ゴーン前会長近く保釈〉(毎日新聞)
〈ゴーン元会長、きょう保釈も〉(日本経済新聞)
〈ゴーン被告 近く保釈か〉(読売新聞)
勾留には2種類ある。捜査段階での勾留と起訴後の勾留だ。ゴーン、ケリー両氏は、A事件で起訴された後も、罪証隠滅のおそれがある、とされて勾留が続いた。合わせて、B事件での捜査段階の勾留がなされていた。B事件での勾留延長が退けられても、A事件の起訴後勾留は続く。この身柄拘束を解いてもらうための手続きが、保釈だ。
捜査段階の勾留についての判断と、起訴後勾留からの保釈とはまったく別の手続きだ。多くの場合、担当する裁判官も違う。しかも、保釈を決定しても、検察側が準抗告をすれば、別の裁判官が3人の合議で判断をする。いったんは保釈決定が出ても、準抗告で覆されることは珍しくない。それにもかかわらず、各メディアがこぞって、勾留延長却下の直後、弁護人から保釈申請も出されていない段階で、「保釈間近」を報じた。通常ありえない、異常な対応だった。裁判所からなんらかの意向が示されていたのだろうか。
ゴーン氏の保釈は、特別背任容疑での再逮捕によって消えたが、ケリー氏については、翌日も「今日にも保釈」という報道が続いた。結局、21日の保釈はならなかったが、3連休をはさんだ25日に実現した。
ケリー氏はなぜ保釈されたのか
特捜事件で被告人が争っていると、検察は保釈に反対する。検察が強く反対すると、保釈は認められにくい。そのため、否認している事件では、長期間の起訴後勾留が続く場合が多くなる。
大阪地検特捜部に逮捕・起訴された厚労省局長(当時)の村木厚子さんの場合、身柄拘束は164日間に及んだ。裁判所は1回目、2回目の保釈請求を退けた。3回目には、1度は保釈決定が出たが、検察側は準抗告した。その中で検察は、保釈に反対する理由として、被告人はマスコミに追いかけられているので逃亡するおそれがあるとか、部下に圧力をかけて証拠隠滅するのではないかとか、およそ現実的でないことを並べ立てた。それにもかかわらず、裁判所は検察の主張を受け入れ、保釈決定を取り消したのだ。
公判前整理手続が進み、検察・弁護側双方の主張や証拠が明らかになって、4回目の申し立てでようやく保釈が認められた。
鈴木宗男衆院議員(当時)が逮捕された事件に連座した外務省職員(当時)だった佐藤優氏の場合、勾留は512日間と、1年以上に及んだ。
かつてに比べれば保釈率は格段に高くなっており、1審終結前に保釈される率は07年の15.3%から17年の32.5%へと倍増した。しかし、特捜事件での否認事件は、認めている場合に比べ、明らかに身柄拘束が長い。
最近でも、補助金を詐取したとして大阪地検特捜部に逮捕・起訴された森友学園の前理事長籠池夫妻は、10カ月ほど身柄拘束をされた。
リニア中央新幹線の建設工事をめぐる入札談合事件で逮捕・起訴された大成建設と鹿島建設の役員が、9カ月身柄拘束された後にようやく保釈された。同じ事件で、刑事責任を認めていた大林組と清水建設は、1人の逮捕者も出さずに終わっている。
刑事事件の弁護人を数多く担当している趙誠峰弁護士は、この間の動きについて、こう指摘する。