関係者が恐れているのは、形式上は協会を退く塚原夫妻が、今後も裏で操るという実質的に“院政”が敷かれることだ。自分たちが表に出る必要がなくなったことで、一層パワハラが横行する恐れも拭えない。すでに審判部では、塚原夫妻の腹心たちが幅を利かせているという。
「一教師だった人物が審判部に入ったり、朝日生命寄りの審判員がいることは紛れもない事実です。朝日生命体操クラブの選手の点数が悪かった時は、腹心を使って露骨に抗議してくることもしばしば。ただ、それはここ数年のことではなく、ずっと昔から続いています。さらに今は、自分の息のかかった本部長を押し込もうとしている話も聞こえています。宮川選手しかり、私たち審判部にしてもしかりですが、パワハラを受けた側が訴えているのに、第三者委員会ではそれが認定されないというのは、おかしな現象です。そのため審判部でも、パワハラを感じているが、恐ろしくて声を挙げられないという人はたくさんいます」(審判部関係者)
日本体操協会のHPによれば、パワハラの定義は以下のようになっている。
「同じ組織で競技をする者に対し、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、指導の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、競技活動の環境を悪化させる行為。それは、単に一般的に不適切だけでなく、違法性を帯びたり、懲戒や懲罰の対象となり得るようなもの、通常、人が許容し得る範囲を著しく超えるものを言う。その概念を前提として認定する」
宮川選手は、すでに速水コーチとの練習を再開しているが、ブランクを考慮すれば東京オリンピックへの門が狭くなったという見方が強い。ひとりの未来ある選手の訴えを、「精神的・肉体的苦痛を与え、競技活動の環境を悪化させる行為」に当たらないと判断した体操協会、第三者委員会の判断の是非は、あらためて問われるべきではないか。
だが、協会側では会長をはじめ、一連の騒動による辞職者は出ておらず(退職する塚原千恵子氏は、定年退職扱い)、すでに過去のものとして風化する気配すらある。“アスリートファースト”の精神を忘れた体操協会は、一連の騒動の教訓を生かすことなく、旧態依然の体質のままあり続けるのだろうか。
(文=中村俊明/スポーツジャーナリスト)