フランチャイズ・スターの晩節を汚してしまったマリナーズ
そもそもメジャーリーグには、ベテラン選手に対する“ある慣例”が存在する。米球界を席巻したほどのスター選手は、最後に自身がメジャーデビューしたチームに戻り、「現役最後の1年」を送るというものだ。花道を用意し、地元ファンに最後の別れを告げてもらう……というわけである。実際マリナーズも、過去にそんなフランチャイズ・スターを呼び戻したことがあった。しかしマリナーズはそこで、とんだ“大失態”を仕出かしてしまったのだ。
2008年オフ、マリナーズは、本塁打王4回、打点王1回、史上最多の米球宴ファン投票1位が5回という輝かしい経歴を持つケン・グリフィーJr.を呼び戻した。当時彼は39歳。通算本塁打数は610本を超えていたが、膝の故障などですでに往年の輝きは失われていた。
しかし、40歳で迎えた“ラストイヤー”で、グリフィーJr.はよみがえる。打率こそ低かったが、117試合に出場し、19本塁打、57打点の成績を叩き出す。フランチャイズ・スターの復活との相乗効果で、チームも前年の61勝から85勝に勝利数を増やし、ア・リーグ西地区3位へと順位を上げた。「来年は優勝を狙えるのではないか!?」とファンは喜んだが、ここでチーム首脳陣が見誤ってしまう。「グリフィーJr.はまだやれる。もっと打てる」。そう判断し、もう1年、契約を延長させてしまったのだ。
しかし、翌シーズンの成績はまったくふるわず、マイナー落ち。そのまま引退してしまった。グリフィーJr.もよほど悔しかったのだろう。今日に至っても、引退セレモニーは行われていない。
「マリナーズが、フランチャイズ・スターの晩節を汚してしまった。ヘンな欲をかいたからだ。グリフィーJr.がかわいそうだ」
そんなふうに地元球団を非難するシアトル市民は少なくなかった。