新型コロナウイルスの感染拡大の陰で、薬業界が大変な状況となっている。多くの患者が命綱としている薬が供給されなくなっているのだ。狭心症治療薬、降圧薬、抗アレルギー薬、向精神薬、てんかん治療薬など、3000品目以上の薬が供給低下している。その原因は、メーカーによる出荷調整と複数の大手ジェネリックメーカーの出荷停止によるものだ。
関東の複数の調剤薬局に話を聞いたところ、製薬メーカーからの薬の供給が滞っているにもかかわらず、薬局に薬がないことを薬局の努力不足と考える患者や医師も少なくないという。神奈川県内の調剤薬局に勤務する薬剤師は、次のように語る。
「毎日、すべての医薬品卸会社に電話をして入荷を催促しています。しかし、『出荷調整のため、入荷次第お持ちします。入荷は未定です』と、答えは同じです。支店や近隣の薬局同士で在庫を融通していますが、在庫がなくなる薬もでてきています。患者さんへ状況を説明し、先発医薬品に替えるなどの対応もしていますが、なかには薬局の努力が足りないと医師や患者さんにお叱りを受けることもあります」
薬局は薬を製造することはできない。そのため、現状でできることとしては、供給が止まっていないメーカーを探すこと、近隣薬局に在庫があれば購入できるか掛け合うといったことだ。しかし、薬の不足はどの薬局も同じであり、普段ならばできる薬局間での売買も、現在は難しい状況となっている。
現在のような薬の供給不足の原因はいくつかあるが、そのひとつがジェネリック(後発医薬品)メーカーの不正が相次いで発覚し、出荷停止の処分を受けたことにある。
これは国が医療費削減の対策として、ジェネリックの使用割合の目標を80%としたことが大きく影響している。そこで複数のメーカーは、期限切れの薬を再利用するという、国への届出と異なる製造方法によって薬を増産する不正を行った。
日医工、小林化工、長生堂製薬、共和薬品工業などで製造上の不備が発覚しており、特に小林加工では、本来含まれないはずの向精神薬が混入した薬が市場へ出回り、服用した患者のなかには死亡者も出ている。
深刻な医薬品不足、厚労省は悠長な対応
こういった状況を受け、厚生労働省は後発医薬品等の製造所における品質管理・製造管理の状況を把握するため、沖縄県を除く全国の医薬品製造所・46施設への無通告立入調査を行った。結果、医薬品医療機器等法違反が、後発医薬品で9施設、発覚した。厚労省は今後も無通告立入検査を行う方針としているが、それによって業務停止などが増えれば、さらに医薬品の供給が低下する可能性もある。
厚労省は、医薬品製造所への無通告立入調査に意欲を示しているが、その一方で医薬品の供給低下に対する危機感は薄いように感じる。厚労省医薬・生活衛生局総務課長の田中徹氏は11月2日、専門紙の共同インタビューに対し後発医薬品の供給低下について「できるならば地域内で融通し合ってほしい」と語っている。まるで、薬局間が連携すれば医薬品の供給低下を乗り越えられるかのような考えだが、そもそもの出荷数が低下している今、薬局間の連携だけで解決できる問題ではない。
また、ジェネリックメーカーを変更することは、患者にとって100%安全ではない。ジェネリック医薬品は先発医薬品と異なる添加剤を使用していることも多く、添加剤によってアレルギーなどの副作用を起こすケースもある。ジェネリック医薬品のメーカー変更には十分な注意が必要である。
医薬品の供給低下により、患者にとっては経済的負担や健康被害が生じるリスクがあり、問題解決には厚労省が本気で取り組む必要があるだろう。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)