まかり通れば、県(道、府)知事と県庁所在地の市長が組んで選挙ごとに難癖をつけて辞職して、「出直し選挙」に持ち込み、任期をそこから4年にできる。選挙の時期を恣意的に決めて有利に運べる。筆者は橋下前市長の入れ知恵と思っていたが、元大阪府議のジャーナリスト山本健治氏は「こういうことを考え付くのは松井ではないか。府議だった親父の代からこういう小賢しいことには長けていた」と見る。
山本氏は「公明党だけがシャカリキになっているけど、自民もガタガタ、独自候補を出せない共産党も高齢化し全然動いていない。維新の松井は8年、吉村は4年近く顔を売ってきた。露出度は全然違う。柳本も小西も苦しい」と見る。朝日新聞の世論調査では、すでに維新2人の圧勝というデータが出ているという。
翌日の遊説予定を知りたく、筆者が「小西、柳本合同事務所」に夕方電話すると女性が「明日の朝電話してください」。翌朝、電話するとテープが「担当者におつなぎしましたが出ません」の繰り返し。自民府連本部にかけると「わかりません」と、再びこの事務所の電話番号を教えるだけ。対する維新は翌日の遊説予定を毎日午後10時ごろ、メーリングリストで送ってくれる。ここからして「自民はもう駄目だ」と感じる。
「都構想」は行政私物化のダシ
山本氏はこんな予想もする。「維新は勝利すれば大阪市民だけの参加だった住民投票を大阪府民へ拡大するかもしれない。そうやって政令市の大阪と堺市への包囲網をつくる。一方で水道などを大阪都全体の管轄にする。そうすれば苦労してきた基礎自治体の役人は『大阪都が決めたことですから』で責任逃れできる。維新はそんなところも狙っているのでは」
在阪マスコミも有権者も維新の印象操作の罠に嵌った「劇場型選挙」の投開票は4月7日。市長選、府知事選、市議・府議選が一斉に行われるのも48年ぶりだ。吉村は「経費節減できた。春に一斉に行う本来の統一地方選の選挙の姿に戻せた」と強調するが、話題づくりで投票率を上げて府議会と市議会での過半数を狙うわけだ。
巷間では「どうして彼らは、あそこまで都構想にこだわるのか」とよく聞かれる。「橋下遺産」を忠実に守る松井、吉村が勝利すれば都構想は本格化する。さらに総選挙で「重鎮の選挙区に候補を立てるぞ」と脅される公明党が再びすり寄る。面白くて仕方ないだろう。都構想をダシにすればいつまでも「選挙、行政の私物化」が可能になるのだ。構想は彼らの信念などではない。
「大阪の人は日本一幸せですよ。こういう選択をできるんだから」。テレビ番組では高みの見物の橋下はご満悦そうに話していた。まったく違う。沖縄のように行政に不満を持つ住民から沸き上がった住民投票ではない。上からの勝手な押し付けの二者択一である。さらに彼の家族は、そんなに幸せなはずの大阪からさっさと東京へ移住したと聞く。
(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト、敬称略)