若く美しいお運びさんが集うとされる表通りに位置する各店舗では、最小サービス時間15分で1万1000円だ。他方、ベテラン女性が数多い裏通りに位置する各店舗では、やや割安で最小サービス時間20分で1万1000円である(詳細は別表参照)。
この15分、20分という小刻みな時間設定から、ともすればリーズナブルな価格帯の風俗店と捉えられがちな飛田新地だが、その実情は、やはり料亭だ。かかる費用も庶民には縁遠い料亭並みだ。
もちろん、料亭なので、料理でも飲み物でも頼めば出てくる。だが、そのメニューは、飛田新地のどの店も一律、ビールと清酒、お造りの3つしかない。ごくまれにこれらを注文する客もいるようだが、そもそもここに足を運ぶ客の多くは、お運びさんとの自由恋愛への期待を持って来ている。料理や飲み物を注文する客など、滅多にいないそうだ。
ちなみに、その代金は、ビールと清酒が1杯1000円、お造りは時価となっており、頼めば近くの仕出し屋から取り寄せるという。
写真厳禁の飛田新地
料亭はどこでも、無粋な客は嫌われる。店内や出された料理を撮影するなどもってのほかだ。ここ飛田新地も例外ではない。店内やお運びさんの撮影は厳禁となっている。
店外での撮影もお勧めできない。かつて記者が、飛田新地内でカメラを肩にぶら下げて歩いていた際、地元住民とおぼしき年配女性から、こう言われた。
「もし写真撮るんやったら、女の子がおる時間帯は絶対写したらあかんで。(女の子が)おらへん時間やったら、文句言う人もおらへんやろう」
よく耳にする「飛田新地撮影絶対NG」とは、ここで働く女性たちへの配慮に尽きる。もし営業時間中にカメラを向けると、やり手婆が即座にやってきて「写真あかん」「データ消しや!」と叱られる。従わなければ、地元の自警団に厳しく注意されるという。
とはいえ、今や全国区、いや世界的にも著名な観光地となりつつある飛田新地では、ここにやってきた記念に写真撮影をしたいという向きが後を絶たない。
そうした人たちが心置きなく飛田新地での思い出をカメラに収められる場が、登録有形文化財である「料亭 鯛よし百番」だ。ここは飛田新地で唯一、料理や酒をたのしむ場として存在する料亭だ。
時折、この「鯛よし百番」をバックに写真撮影する男性複数人のグループを見かける。彼らの多くは、取引先との接待、職場での同僚、学生時代からの仲間内といった集まりだ。そんな彼らに話を聞くと、一様に口を揃えてこう言うのだ。
「みんなで飲んだ後の流れで遊びに来ました。だから短い時間のほうがいいんです」
男に余計な言葉は要らない。短い時間でハイレベルな女性との自由恋愛を楽しむこの飛田新地での“遊び”は、古きよき時代を今に伝える大阪の、いや、日本の文化なのかもしれない。
(文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト)