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生稲晃子を通販会社が提訴…参院選出馬で損害は最大4千万円?

文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表
生稲晃子を通販会社が提訴
生稲晃子Instagramより

 今年7月に投開票が予定されている参議院議員選挙で、自民党から出馬すると公表しているタレントの生稲晃子が、これまで継続出演していた通販番組の運営会社から損害賠償を求める訴えを東京地裁に提起された。

 6月6日、通販番組『痛快!買い物ランド ショップ島』を手がけるジェイ・エスコムホールディングスは、公式サイト上で「訴訟提起に関するお知らせ」と題するプレスリリースを発表。

 プレスリリースでは、「プロダクション尾木に所属するタレント」が同番組に継続的に出演していたが、「急遽テレビ放映等で利用することができなくなる事態が生じた」として、損害の補填を求めたが満足できる回答を得られなかったとして、提訴に至った理由を説明している。「プロダクション尾木に所属するタレント」というのが、生稲を指しているとみられる。

 請求している損害賠償額は、現時点で確定しているのは約900万円、最大で2000~4000万円程度に増額する可能性があるという。

 確かに、テレビ局では選挙への出馬が決まっている人物が出演している番組については、放送を見合わせる“自主規制”を行うことが多い。あるテレビ局のディレクターは、「すでに収録してある番組や、過去に放送された番組であっても、出馬予定者が出演している場合、その人物のイメージアップやイメージダウンのいずれに寄与しても苦情を受ける可能性があることから、放送は見合わせるようにしています」と説明する。

 だが、仮にすでに収録済みの番組をテレビで放送したとして、それが選挙運動となる可能性はどれほどあるのだろうか。仮に、公職選挙法が禁止する「事前運動」に当たらない場合、放送“できない”のではなく、あくまでも“自主規制”ということになり、損害賠償請求に相当性があるとは考えにくくなる。山岸純法律事務所の山岸純弁護士は、次のように解説する。

山岸純弁護士の見解

 最初の印象としては、なんとも不思議な訴訟と感じます。

 まず、何がダメなのかですが、そもそも「選挙運動」とは、(1)告示されていなくても選挙が特定していて、(2)候補者が、(3)有権者に投票するよう働きかけること、を言うのですが、先日、自民党が「夏の参院選をいついつに告示する予定」旨を公言していましたので、「参議院選挙が特定している」という要件は満たしそうです。

 次に、「選挙運動」は、選挙が告示された後、立候補届が受理されてから投票日の前日午後12時までの間に行うことができます。ずーーーっと「選挙運動」ができるとなれば、カネをもっている候補者が有利になってしまうからです。このため、「立候補届が受理される前の選挙運動」は「事前運動」といい、公職選挙法上、厳しく禁止されています。

 さて、具体的に、何が「事前運動」になるかですが、

・のぼり旗、プラカード、たすき、腕章、ポスターなどを使って立候補予定者の「名前」などをアピールすること、

・のぼり旗、プラカード、たすき、腕章、ポスターなどを使って立候補予定者が投票を促すような演説をしたりすること、

・支援者が、「〇さんは立候補予定です。お力添えをお願いします」などの文書を配布する、

などなどです。

 昔から、あの手この手で、違反にならないような”回避術”が練られてきたので、今となっては事例ごとに考えなければならないという面倒な状況です。

 ところで、生稲さんの件ですが、“自粛”とは別に、立候補を表明した方がテレビに出演すること自体は問題ありません。あくまで「有権者に投票するよう働きかけること」が問題なのです(通販番組が選挙運動になるわけありません)。とはいえ、生稲さんは、出演を”自粛”したということでしょう。

 では、これが番組制作側にとって損害となるかどうかですが、プロダクションと制作側間の「出演契約」には、回数、ギャラ、出演不可の場合の取り決めなどが定められているところ、「生稲さんが出演を”自粛”した」ことを「出演拒否」ととらえ、損害賠償請求を行ったと思われます。要するに、「参院選に立候補するからテレビは自粛しなければいけないので……」云々といった理由は関係なく、単に「出演拒否」として出演契約に基づき法的手続きをしたということです。

 しかし、公職への立候補は憲法によって保障されることですし、おそらく、まずはお互いに話し合いを続けたものの折り合わず、任意の解決ができなかったから法的手続きに至ったのでしょう。

 なお、訴訟で認められ得る損害額ですが、「放映できない生稲さん収録分の取り直しにかかる費用」、「これから代役を見つける費用」などが考えられます。選挙云々を考えずに、単純な「出演拒否」として考えれば妥当なところです。

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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