かつて食品偽装問題で「不二家」や「船場吉兆」が店舗閉鎖などに追い込まれたが、それでも全然懲りないらしい。そして歴史に学ぶこともしないのか。
しかし、実は食品偽装の歴史は古い。そしてワールドワイドである。何しろ古代ローマの時代から食品偽装は存在したというのだ。
『食品偽装の歴史』(ビー・ウィルソン/白水社)によれば、恐るべき食品偽装の数々が浮かび上がってくる。
古代ローマ人はワインを水で薄め、劣化を遅くするため鉛を使ったという。鉛は人体にさまざまな影響を及ぼす。ある歴史家によると、鉛入りワインが病気を招き「非常に多くの裕福なローマ人が、生殖能力を失った原因のひとつではないか」との説さえあるという。鉛は古代以来、食品の材料に使われていたが、その毒性は知られていなかった。しかし18世紀に入って鉛の毒性が判明して以降も、この添加物は使用されていたという。
さらに1820年には、イギリス人のフレデリック・アークムが食品添加物についての本を出版し、欧米に衝撃を与えた。アークムはここで、糖菓には澱粉、粘土が混ぜられた上、銅と鉛を調合したものがあり、キノコを原料にしたケチャップには、売れ残って腐敗しているものが使われ、ピクルスの緑は銅で着色されている、と多くの食品に添加やごまかしが行われていることを化学者として告発したのだ。当時は燃やしたエンドウ豆とインゲン豆でつくられた偽コーヒーも出回っていたらしい。また18世紀のフランスでは悪質なパンが出回り、警察は「パンをいかにつくるべきか」を厳密に定めていたという。
こうした食品偽装は、しかし近代になると減るどころかますますひどくなっていった。防腐敗処理、サッカリンの使用、水で薄めた牛乳、内容量の過大表示、古い肉に新鮮な脂肪を注入してごまかし、古いチーズには新鮮なバターを表面加工、イミテーション食品に有機栽培の欺瞞……。
時に死亡者も出してきたのが食品偽装の歴史である。同書によると「200年前から政府は、食品偽装を経済秩序と自らの権威に対する脅威と見てきた」そうだが、現代社会においても、それは決してなくなることなく、綿々と続いているのが現状だ。また著者は食品偽装について「人の命が犠牲になるかもしれない卑劣で貪欲な行為」であり「金が儲かるなら他人の健康を損ねても一向に構わないという陋劣(ろうれつ)な人間の話」と断罪する。
「偽装表示」程度なら健康被害は生まれないと、高をくくっている者もいるかもしれないが、儲けのために消費者をないがしろにする態度は一緒。その意識が、悪質な食品偽装につながるはず。現在日本で巻き起こっている食品偽装の関係者たちは、この言葉をどう受け止めるだろうか。
(文=編集部)