これは全国海水養魚協会のトラフグ部会が今年、11月29日を「いいフグの日」として記念日に制定したことをきっかけに行われたイベント。11月は各養殖場が2年かけてじっくりと育ててきた新もののトラフグの出荷が本格化する時期だ。
説明会で近畿大学農学部水産学科水産経済学研究室の有路昌彦(ありじまさひこ)准教授から説明がなされた後、記者の前に2人前はある、てっさの皿が並べられ、試食会が始まった。
この時、有路准教授から「1枚だけでは味がわからないので2枚以上重ねて取り、とにかくよく噛んで食べてみてください」と勧められた。
実はこれには意味があった。
「食べ物のうまみというのは、大きく分けると2つ。ひとつは脂肪分。そしてもうひとつはイノシン酸、グリシン、リジンなどのうまみ成分。トラフグの場合、脂肪分はほとんどないのですが、このうまみ成分が豊富。だから多く噛むことによって、そのうまみ成分を感じることができるのです。これは、ほかのフグとも違います」(有路准教授)
●天然フグを超えた養殖フグ
確かに噛めば噛むほど、そのうまみ成分が口に広がることを実感する。
「養殖フグは実はクロマグロと並び、わが国を代表する『最先端の養殖技術の結晶』なのです。トラフグの養殖は技術の進歩によって、平均的という面では、すでに天然フグの味を超えているといわれています」(同)
養殖では、餌の改良などで雑味を排除し、うまみ成分と食感(噛みごたえのある弾力性)を安定的に出せるようになったという。
そんなトラフグは、関西では日常的に食べられているが、東京では超高級料理。1人前1万円ぐらいから、店によっては4~5万円出さなければ口にすることができない。
なぜこんな歪みが生まれてしまったのだろうか?
「養殖トラフグが、ほとんど普及しなかったからです」(同)
「天然トラフグの漁獲量は年間数百トン程度」(同)である一方、養殖トラフグは年間4000トン生産され、「養殖フグの7割は京阪神で消費されており、東京に出回っているのは1割程度」(前田若男トラフグ養殖部会長)という。つまり市場で出回るトラフグのほとんどは、養殖のトラフグということだ。
●東京でフグが超高級料理なワケ
大量生産されているにもかかわらず、東京でこれまで養殖のトラフグがほとんど出回らなかったのはなぜなのか?
「実はそのきっかけとなっているのが、身欠きフグの規制なのです」と、有路准教授はその理由を明かす。
身欠きフグとは、出荷時点で内臓など毒を含む部分を排除し、一次加工されたもの。これなら素人でも取り扱うことができる。
ところが「昨年まで東京都の条例で、店頭でフグをさばいて販売しなければならなかった。そのため、フグの調理免許を持った職人を何人も雇わなければならず、多くの店では、職人にさばかせるのであれば、単価の安い養殖ものではなく天然ものを扱うということを選んだ結果、養殖ものが普及しなかった」(同)という。