国立・私立大学の合格発表が概ね終了し、来年受験する大学をどこにするのかを意識し始める高校2年生や保護者も多いかもしれない。そうしたなか、私立大学の「序列」といえば早慶上智(早稲田大学・慶應義塾大学・上智大学)に次ぐ関東の大学群としてMARCH(明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学)が位置付けられていたが、こうしたラベリングはすでに過去のものだという指摘も数多くなされている。果たしてMARCHという括り方に意味はあるのか。また、大学受験における志望校選びの実態はどうなっているのか。専門家の見解を交え追ってみたい。
河合塾の大学入試情報サイト「Kei-Net」に掲載されている2024年度の「主要私立大志願状況(集計データ)」(2月2日現在)によれば、主要私立64大学の志願者数は、前年度比102%の149万1626人。早慶上理(「理」は東京理科大学)は同101%の20万3394人、MARCHは101%の28万1814人、関関同立(関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学)は104%の25万8749人となっている。
また、大学別にみると、東進ハイスクールの公式サイトによれば、主要私立大学では明治大学が志願者数10万8652人(2月11日現在/以下同)で1位、法政大学が10万2168人で2位、早稲田大学が8万9420 人で3位となっており、依然として早慶・MARCHが多くの志願者を集めている傾向がうかがえる。一方、不祥事に揺れるマンモス大学・日本大学の志願者数が10万人を大きく割り込む約7万5000人となり、前年から2万人以上減ったことがニュースとなっている。
そうしたなかで指摘されているのが、そもそもMARCHという括り方自体が時代遅れだという点だ。確かに予備校など各社から発表されている私立大学の学部系統別の偏差値ランキングをみると、国際基督教大学や東京理科大学、工学院大学、成蹊大学、明治学院大学、武蔵大学、学習院大学などがMARCHよりも上にきているケースもみられる。
代々木ゼミナール教育情報センター教育情報室部長の川崎武司氏はいう。
「もちろん個別の学部によって難易度にバラつきはあるものの、大学単位でみた場合、トータルすると早慶上智の次にくるのがMARCHという分け方は、概ね実態に即しているといえます。また、たとえば『MARCHの志願者数が増えている/減っている』といった言い方は多くの人にとってパッとイメージをつかみやすい、理解しやすいため、便宜上この括り方が使われているという面もあるかもしれません。
就職実績や難易度、人気などを総合的に勘案すると、MARCH内では明治大学が頭一つ分飛びぬけてトップで、その下に青山学院大学と立教大学、その下に中央大学と法政大学がいるというイメージです。ただ、先ほども言いましたように、個別の学部ごとでみると変動はあります。たとえば立教大学の看板学部である経営学部経営学科などは慶應義塾大学や上智大学の同系統学部と同レベルの偏差値となっていますし、MARCH以外の大学でも高い偏差値の学部は存在します」
「記念受験」という言葉は死語
一昔前であれば、東京以外の地方在住の受験生でも「早慶上理に入りたい」「MARCHくらいには入っておきたい」と考えて受験するケースは珍しくなかったが、今の受験生はそもそもそうしたカテゴライズを意識しているのだろうか。
「もちろん今でも『どうしてもこの大学のこの学部に入りたい』『この分野を深く学びたいので、この大学・学部に行きたい』と考える受験生も一定数いることは事実ですが、『今の実力で現役合格できそうな大学・学部はどこなのか』という軸を重視して志望校選びをする傾向が強いです。かつては地方在住の受験生が首都圏の早慶やMARCHの学部を複数受験するというのは珍しくなかったのですが、今では『記念受験』という言葉は死語になっています。かつては早慶やMARCHの入学者の半分程度が地方出身者で、通学のために引っ越してくるというケースは普通でしたが、今では学生の8割くらいが首都圏の実家から通っている大学もあるという印象です」
このような傾向が強まっている背景には何があるのか。
「家庭の経済的事情や価値観の変化など複数の要因がありますが、一番大きな要因は『保護者の価値観』だと感じます。受験生の保護者世代は自身が学生時代に激しい受験戦争を経験しており、『浪人して当たり前』という時代を通っていますが、その後の社会人経験も踏まえて『わざわざ浪人してまで高い偏差値の大学に行く必要はない』という価値観を子どもに示しているご家庭が多いように感じます。実際に高校の先生方の話を聞くと、生徒に『もう少し頑張れば、東京のこのあたりの大学も狙えるよ』とアドバイスしても、『でも親が地元のこの大学でいいって言ってるので』と返されることも増えているようです」
こうした傾向は、国立大学と私立大学のどちらを志望するかという選択でも見られるという。
「一昔前であれば、私立大学と比較して学費が安い点や研究環境が充実している点、もしくはステータスなどの理由で国立大学にこだわる受験生というのは一定数いました。学力的に地元の国立大学が難しかったり、学びたい学部学科がないという理由で別の都道府県の国立大学に行くというケースはありましたが、今では『社会人になっても地元暮らしでいい』という受験生が増えており、『地元企業に就職するなら、地元の私立の●●大学でもそこそこ就職実績は良いから、そこでいいよね』という方針に受験生も保護者もなりやすいようです。
逆に東京在住の場合だと、学力的に東京の国立大学は難しいからといって『じゃあ地方の●●県の国立大学に行こう』とはなりにくく、『MARCHでもそこそこの企業には就職できるし、実家から通えるのでわざわざ一人暮らしをするより経済的負担も少ない』という選択をする傾向が高まりつつあります。
こうしたことは同じ私立大学のなかでの志望校選びでもいえます。『社会人になったら東京に出たい』『東京の大学に行きたい』という東京志向のモチベーションが薄れているので、『だったら地元の大学でいいよね』という方向になり、受験勉強を頑張って一人暮らししてまで早慶上智やMARCHに入りたいという人は少なくなっています」
「区分で勝負する」
大学受験では複数の大学・学部を受験するのが一般的だが、昨今の受験事情を踏まえると、その組み合わせを決める上ではどのような点に注意すべきか。
「併願校を考える以前の話として、一般選抜か総合型選抜(旧AO入試)、学校推薦型選抜(旧推薦入試)の『どの入試区分で勝負する』かの受験戦略を立てることが重要になってきます。今では大学入学者全体の約半数が総合型と学校推薦型選抜で占められていて、一般受験組が2,3割程度の大学もあります。大学側としては、一般受験以外のルートで『いかに年をまたがずに、より多くの学生を受け入れることができるのか』を重視しており、いわゆる高校3年次における『年内入試』を意識しています。また、私立高校では学校推薦型として大学の指定校枠を多く持っているところや、系列・附属の高校からエスカレーター式でごそっと学生が入ってくる大学もあります。そうした現状を総合的に勘案して志望校選びを行う必要があります」
受験生の子を持つ親は、自分が受験した頃の常識が通用しないという現実を認識すべきといえるだろう。
(文=Business Journal編集部)