中誠信託が中国工商銀行を通じて個人から集めた30億元(約520億円)は、山西省の民営石炭会社、振富能源集団に融資された。同集団はこの資金を炭鉱開発に充てたが、石炭価格の下落や地元住民とのトラブルで資金繰りに行き詰まった。損失の引き受けをめぐって投資家、銀行、信託会社が責任の押し付け合いを始め、デフォルトの足音がひたひたと忍び寄ってきた。
投資したのは工商銀行の富裕層顧客700人。銀行の営業担当者の推薦で信託商品(理財商品)を買ったといわれているが、昨年12月20日、顧客は銀行から「期日に元利金が返済されないかもしれない」との連絡を受け、大騒ぎになった。元本保証はもともとない商品だが、中国の銀行は工商銀行だけではなく、理財商品を預金類似商品として大々的に売ってきたため、投資家は銀行や信託会社が「暗黙の保証をした」と受け止めていた。一度でも投資家たちを裏切れば、理財商品全体の信用が失墜することになり、新規の発行は絶望的になる。
●インフラ投資を支える、シャドーバンキングのマネー
中国では石炭会社や不動産会社、地方の開発プロジェクトまで理財商品に資金を頼っているケースが多い。新規発行ができなくなればインフラ投資を支えるマネーが目詰まりを起こす。振富能源集団が本拠を置く山西省政府が救済する、と一部中国メディアは報じたが、同政府は「完全なデマ」とすぐさま否定した。中国工商銀の姜健清・薫事長は米CNBCとのインタビューで「返済責任は決して負わない」と言明したが、過去には同様の問題が起こった際に、事態を収拾するため信託会社が支払いを肩代わりしたケースがある。昨年8月、陝西省国際信託が理財商品を通じて融資していた河南省の化学肥料会社が破綻し、顧客への元利払いが困難になった。この時は信託会社が支払いを肩代わりした。
「誠至金開1号」の元本は30億元。中誠信託には昨年末時点で純資産が約100億元あるといわれている。負担できない金額ではないが、肩代わりが常態化するとやっかいな問題に発展する。銀行や信託会社が信託商品に「信用保証をつけている」と監査法人が見なすと、貸借対照表に計上しなければならなくなるからだ。巨額の理財商品を貸借対照表へ計上することを求められたら、銀行の不良債権比率が一気に跳ね上がり、銀行が軒並み破綻することになる。
こうした金融当局の目が届かないシャドーバンキング(影の銀行)の資金規模は、中国国内で20~30兆元(約340~520兆円)に上ると試算されている。一つでも理財商品がデフォルトになると、巨額の連鎖が起こることになる。
●採炭業者や不動産開発会社の経営破たん続出
2月12日付の上海の経済紙「上海証券報」によると、吉林省信託(吉林省長春市)が発行した「吉信・松花江77号」という理財商品が、期日までに元利金を返済できず、支払いが遅延しているという。発行残高は9億7240万元(約165億円)で、このうち期日が来た7億6340万元(約130億円)が返済されていない。投資先である山西省の採炭会社が、石炭価格の下落で債務の返済ができなくなっている。「吉信・松花江77号」を購入しているのは個人投資家で、銀行は年9.8%の予想利回りを提示して販売していた。