捜査関係者の話によると、8月28日、神奈川県川崎市内を走行中の東急田園都市線の車内で、同市環境局に勤める男が隣に座った女子大学生をUSBメモリーの形をしたカメラで動画撮影した。それに気づいた女子大学生が警察を呼び、県迷惑行為防止条例違反で逮捕された。撮影した映像は女性の顔から足までの全身で、下着は写っていなかったという。
スカートの中を盗撮するなどして逮捕される事件は、残念ながら実によく耳にする。しかし、下着が写っていなくても逮捕されるということが今回、波紋を広げている。
実は、類似の事件は過去にも何度か起きている。2008年に通行中の女性の後ろ姿を撮った自衛官が最高裁判所で有罪とされた。判決文では、ズボンの上からお尻を撮影したことが「卑わいな言動にあたる」と判断されている。また、11年には千葉県で電車内の女性の寝顔を撮った男が逮捕された。
わいせつ目的と判断されれば逮捕の可能性
痴漢や盗撮などの性犯罪について詳しい弁護士の久保正昭氏は、次のように解説する。
「各自治体の迷惑行為防止条例において、盗撮等を禁止する条文を調べてみると、主要な部分はほぼ同じで、『何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせる行為を禁止する』と規定されています。今回の事件も、女子大学生が『恥ずかしい思いをさせられた』『不安を覚えさせられた』と訴えたことが逮捕の決め手となっています。また、USBメモリーの形をしたカメラを用いていることから、わいせつ性のある盗撮を目的としていると判断された可能性があります」
つまり、撮影された側の主観が大きな要素となっているのだ。
「不用意に他人を撮影すると、誰もが捕まりかねません。迷惑行為防止条例は、女性の下着や身体を写して恥ずかしい思いをさせたり不安を抱かせた場合に適用されます。『身体』とは洋服を着た状態も指すので、街で通行人の女性を撮り、警察を呼ばれたらアウト。カメラやスマホを向けただけ、シャッターを切らなくても捕まります」と警鐘を鳴らす法律家もいる。
しかし、その意見は極論だと久保氏は語る。
「漠然と街中の風景を撮影したり、単にカメラを向けただけで逮捕されるなどということはあり得ません。迷惑行為防止条例の立法主旨は、性犯罪の抑制にあります。つまり、撮影行為にわいせつ性があるかどうかが、犯罪成立の要件ともいえます。社会通念上の性的な道義観念が判断基準となります」
では、具体的には、どのような写真撮影が「わいせつ」と判断されるのだろうか?
「これから各地で開催されるであろう秋祭りで法被を着ている女性、サンバカーニバルで露出の高い衣装で踊る女性を撮る行為はグレーです。しかし公にされている祭りですから、違法性は低いと思います。むしろ、公園で子どもと遊ぶ主婦やベンチで居眠りする女性の顔などを望遠レンズで撮影するのは、わいせつと判断される可能性があります。また、親の許可を得ずに水場で遊ぶ幼女を撮影するのは『児童ポルノ禁止法』に引っかかる可能性があります」