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さらに、高橋の時代には国内労働力の増加と円安がしっかりと結び付いていたため、輸出力を大幅に強化させることで輸出総額は30年からの5年間で70.2%も増加した。それに対し現在は輸出企業の海外生産が進んだことで、為替差益こそ増加しているが、輸出数量の増加は微々たるものにとどまっている。
そして何よりも、高橋は引き受けた国債を短期間で市中に売却し、日銀のバランスシートを健全化した。日本と同様に量的緩和を実施している米国でも、FRB(米連邦準備制度理事会)は量的緩和の解消(出口戦略)を早くから検討し、その内容を公表している。しかし、現在の日銀は巨額の国債を保有し続け、出口戦略の手法についても公表していない。
つまるところ、高橋と黒田総裁は似たようなインフレーション政策を行ってはいるものの、時代背景やその手法により政策の効果には雲泥の差があり、黒田総裁はどうあっても「平成の高橋是清」にはなれないのだ。
ただ、高橋の積極財政による日銀の国債引き受けは軍事費を増大させ、それが軍部の発言力を増して日本が満州事変以降の大戦へと突入していったのと同様に、異次元緩和に支えられたアベノミクスの効果により安倍首相の発言力が強まり、集団的自衛権問題に見られるように軍国主義的な傾向が強まっているあたりに妙な共通点を感じる。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)
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