そしてこの規制緩和に関する陰の所管官庁は、警察庁かもしれない。彼らはインバウンドの動向を把握できないことを嫌う。なぜなら、そこには犯罪者が紛れ込んでいるかもしれないからだ。Airbnbで宿泊する者は、旅館業法で定める宿帳などに自分の名前や住所を書く必要がない。サイトを見ているだけでは、オーナーが誰かもわからない。画像データによる本人確認システムは偽造へのガードが弱いので、犯罪の温床になりやすい。警察庁の心理としては、犯罪者が利用しやすいシステムを嫌うだろう。
今回の渋谷の件は、今のところ事故である。しかし、もしこれが殺人事件だったらどうなるだろう。警察庁はこれを奇貨として、Airbnbの規制に乗り出してくることも考えられる。
Airbnb規制で不動産市場が冷え込む懸念も
一方、日本でAirbnbが規制されると、外国人たちは日本国内の美味しい投資先をひとつ失うことになりそうだ。今なら東京都心のタワーマンションは表面利回りが4%程度でも、Airbnbで回せば10%前後の高利回りが期待できるので、彼らの購入意欲を刺激するかもしれない。しかし、そのAirbnbが規制されれば、一気に投資意欲が冷める可能性も十分ある。
さらに、マンションデベロッパーや管理会社、管理組合にも動きがある。自分たちのマンションを外国人がホテル代わりに使用することを、喜ぶ人は多くない。これから引き渡される新築マンションのほとんどには「Airbnb禁止条項」が盛り込まれるだろう。管理会社はAirbnbに対して敏感になり、その対応ノウハウを研究して経験を積む。既存の管理組合はAirbnb禁止に向けて、困難な規約改正に努力するようになる。
しかし、たとえ管理規約で禁止されていたところで、マナー感覚の異なる外国人が遵守するとも思えない。
今のところ、中国人の「爆買い」は都心のマンション市場を支えている。彼らは、現在の不動産バブルの立役者である一方、将来に向けて悩ましい不安定要素でもある。Airbnbには、都心のマンションの風景を変える可能性さえ潜んでいる。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)