では青田売りの何が悪いのだろうか。まず、建物完成前に契約をするということは、契約当初から「完成引渡し」について顧客と約束することになる。「3月末引渡し」と契約書で取り交わせば、デベロッパーにとっては3月末の引渡しは「絶対に守らなければならない期限」となる。ここで工期が動かせなくなる。いっぽう顧客とたとえば4000万円で契約書を交わすことで、「売り上げが確定」することとなる。
したがって、当初想定した建設費の範囲で工事が行われなければ、追加コスト分をもはや顧客に転嫁することはできなくなる。ただでさえマンション事業は純利益率が5%程度の利幅の薄い事業。建設工事中での建設費の上昇は許されなくなる。売り上げが決まって、引渡し日が確定することによって、マンション事業ががんじがらめになる。設計上は問題ない工事であっても、想定外の事態は発生するものである。
ところが事業の構造上、引き返すことができないのがこの「青田売り」である。どうにも動かせない事業構造のしわ寄せが結果的に「データの偽装」にまで至ってしまうことについては、改めなければならない。
設計施工の一括受注
問題のもうひとつの根源が、「ゼネコンによる設計施工の一括受注」である。建物を建設する場合、設計と施工は分離して行うのが世界の常識である。米国では設計と施工の関係を「Police(警察)」と「Robber(泥棒)」で表現する。施工が「泥棒」であるとはまたずいぶんな表現であるが、施工者は放っておくと「悪さ=手抜き」をする可能性があるという「性悪説」に基づいている。設計は常に施工を見張り、設計通りに施工されることを常に監視する。施工側は設計に無理がないか、現場の状況も伝えることで互いに良い建物を建設していく。この良い意味での緊張関係の中で建設が行われるのが、欧米では常識である。
ところが日本のマンション建設現場の多くが、ゼネコンによる設計及び施工業務の一括受注である。なぜ一括受注なのか。「安い」からだ。設計業務を設計会社に単独で発注をするよりも、一括でゼネコンに発注するほうが業務も効率的になり発注価格も安くなるからだ。マンションは末端の商品価格が決まっているものなので、「一括発注」によって安く効率よく建物を建設して引き渡してしまおうという発想が、ゼネコンへの一括発注につながるのだ。そしてゼネコン側では、この「良い意味」での設計と施工の緊張関係がどうしても甘くなってしまう。同じ会社なので致し方ない。こうした現場の緊張感の緩みが、工期と建設コスト厳守のプレッシャーの中でデータを偽装してまで仕事を片付けようとする体質を生み出しているのだ。