ついて聞いてみた』
(講談社/緑 慎也)
バイオ関連株の上昇のきっかけは、京都大学の山中伸弥教授が昨年10月にノーベル生理学・医学賞を受賞したこと。あらゆる細胞をつくることができるiPS細胞(人工多能性幹細胞)を初めて作製したことが評価された。その後に発足した安倍政権では、この革新的な研究成果を国際競争力強化に結びつけることを国家戦略として打ち出した。具体的にはiPS細胞を利用した創薬や再生医療の実用化のため、研究支援などに今後10年間で約1100億円を投じることを決定している。
こうした流れを受けて、例えば薬を患部に伝送するシステムに強みを持つナノキャリアの株価は、昨秋の6万円前後から、今年に入って48万円と約8倍に急騰、抗体医薬の研究を進めるカイオム・バイオサイエンスも同期間に10倍以上となった。1月下旬からは高値警戒感もあって、さすがに一服となっている。市場では「バイオ関連株物色は終了した」との声も出始めている一方で、これからが本番と期待する向きもある。
●過去2回のバイオ関連株相場
日本の株式市場では過去2回、大きなバイオ関連株相場があった。最初が1980年代前半の抗がん剤相場で、次が86年からのエイズ薬相場である。81年に、日本の死亡原因のトップが、それまでの脳血管疾患からがんになった。首位の交代は31年ぶりで、当時がんは「不治の病」として恐れられていた。
そんな折に日本の大学教授が、がんにはインターフェロン(IFN)が有効であることを発見した。IFNは人間の細胞内にウイルスが侵入した際に、その増殖を抑制する効果がある生理活性物質。これがさまざまに分類され、開発に関連のありそうな企業の株式が軒並み買い進まれた。中でもリード役だった持田製薬の株価は1000円前後から、84年には1万6600円の最高値を付けている。がん患者の家族が夢を託して株を購入したとの報道もあった。
86年からはエイズ(後天性免疫不全症候群)が注目を集めた。エイズウイルスは免疫力を急速に低下させるもので、健康な人では病気になりえないような微生物からも感染。いったん発病すれば死に至るだけに、深刻な問題となった。87年には日本でエイズ患者が発見され、症状を抑制させる効果があるとされた「アジドチミジン」(AZT)などの物質を手がけている銘柄が上昇した。AZTに関連があるとされた味の素の株価は、1000円強から4350円になった。がんやエイズはその後治療法の開発が進むが、物色された銘柄から画期的な新薬は出なかった。いずれも、夢で終わったともいえる。
●今回は科学的裏付けがある
前回2回と今回の大きな相違点は、日本の研究者がノーベル賞を獲得しているという、科学的な裏付けがあることだ。開発を支援する、国の体制も整いつつある。iPS細胞は、特定の細胞を大量につくることができる。病気に関係する細胞を、動物実験や人を使った臨床試験なしに見つけられることで、薬を早期に実用化できる可能性を秘めている。
日本では2001年前後に創薬ベンチャーブームがあった。ヒトの遺伝子配列が発見されたことがきっかけだったが、多くの企業が実績を出せずにその後苦しむ。しかし、10年以上の年月をかけて、最近ようやく開発の進展が見られる企業も出始めている。そうしたタイミングでの第3次バイオ関連株人気。以前よりは実力のある企業に、チャンスが訪れている。
山中教授のiPS細胞関連の知的財産の管理、開発実施権の許諾などを行う組織に「iPSアカデミアジャパン」がある。日本の上場企業で唯一、iPSアカデミアとライセンス実績があるのがマザーズに上場しているタカラバイオだ。タカラバイオは、これとは別に白血病の遺伝子治療でも先行していることで知られている。