元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな小説の書き出しは「今日、ママンが申告した」です。
みなさんのところに税務調査が来たら、どのように対応しますか。必要以上に腰を低くするのか、あるいは喧嘩腰でいくのか、何事にも動じず論理的に対応するのか――。それぞれのやり方があると思いますが、調査の現場でのやりとりを録音や撮影で後世に残しておきたいと考える人がいます。ところで、税務調査中の録音・撮影は認められるのでしょうか。
ある地方税務署のベテラン職員Aが税務調査に行くと、調査対象者Bが室内にビデオカメラを置いていることに気づきました。Bは帳簿の開示等、調査そのものには協力的であったものの、再三の要請にもかかわらず撮影を中止することはありませんでした。
A「守秘義務に抵触するおそれがあるため、ビデオカメラでの撮影を控えていただけませんか。このままでは、調査ができません」
B「証拠として残したいのです。撮影したまま、調査を続けてください」
Bが撮影を中止する気配はありません。さらに、帳簿が並べられた会議室には、Aの知らない、調査対象者の従業員ではないと思われる成人男性が15人いました。
A「そもそも誰なんですか、この人たちは。税務調査には、税理士以外の第三者の立ち会いは禁じられています」
B「なぜなんですか?」
A「これも、守秘義務に抵触するおそれがあるからです」
B「私は、私の申告や業務の内容がこの人たちに漏れても構いません」
A「あなたが構わなくても、私の守秘義務がなくなるわけではありません。お引き取りください」
Bは、一向に要請を受け入れる様子がありませんでした。さらにBは、これより前に行われた1回目の調査で、調査理由の開示や調査の事前通知がなかった理由の説明を求めました。
B「あなたの税務署の総務課長からは、事前通知がない場合について、『事業実態が不明な場合』『現金取引がある場合』『調査妨害が予想される場合』と聞きました。私は、そのどれに当たるのでしょうか。思い当たる節がありません」
A「今、実際に、第三者によって調査妨害がなされているじゃないですか」
Aは、撮影の中止と第三者の撤収を再度要請しましたが聞き入られることはなく、辞去するにいたりました。そして、このようなことが複数回にわたって行われたため、調査を打ち切り、推計による課税を行いました。
調査を妨害したと判断されると推計課税に
Aは、複数回の臨場において、撮影と第三者の立ち会いは認められない旨を伝えましたが、Bが同じ問答を繰り返すばかりでなく、第三者から無秩序な発言が飛び交い、これ以上の議論の余地はありませんでした。このような状況においては、帳簿を持ち帰る、第三者からの誓約書を徴収するなどの義務を負うものではなく、推計課税(売上や規模など得られる情報から推計して、税額を計算すること)が認められると考えられます。
撮影や録音をしたいと納税者が考えることはあると思います。それは税務調査中の「言った」「言わない」が問題になることがあるからです。だからといって、15人の第三者を立ち会わせることは合理性に欠けるのではないでしょうか。
ビデオカメラがあれば十分だし、立ち会いをするにしても1人でいいはずです。あるいは、合法的に税理士の先生に立ち会いを依頼することもできます。実は、Bがそうしなかったことには理由があって、15人は反税団体に所属している人間だったのです。
一般の納税者のなかには、その安い顧問料に惹かれ、実態を知らないまま反税団体と契約をしてしまう人がいます。そうすると、このような身内の税務調査のときに駆り出され、よくわからないまま人的優位をつくりだすための道具とされてしまいます。
立ち会うこと自体は法律に違反しなかったとしても、税務行政を妨害し、適正な課税を阻害する行為で、倫理にもとります。そのような行為に加担しないためにも、多くの人に正しい知識を得てほしいと思います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)