不動産の価値を鑑定する場合、3種類の手法があるとされている。同じものを新しくつくるといくらになるのか、という原価法。周辺の似たような物件がいくらで取引されているかという、取引事例比較法。そして、将来得られる収益を現在価値に割引く収益還元法。
10年ほど前までは、もっぱら取引事例比較法で市場価格が形成されていた。ところが、最近の東京都心立地における収益物件は、もっぱら収益還元法で価格が決まっている。というのは、収益の利回りが軒並み4.5%から5.5%の間に収まっているからだ。
収益物件というのは、総額が1億円から5億円くらいまでの1棟もののマンションやビル、アパートなどのことだ。いわゆるサラリーマン大家と呼ばれるような、セミプロ級の不動産投資家が購入するタイプの物件。その収益モノの市場に出回っている物件の利回りが、中身のいかんにかかわらず、きれいに4.5%から5.5%のレンジに入っているのが、今の状態だ。なんとも不自然さを感じるのは、私だけだろうか。
購入金額のほとんどを融資で賄う個人の不動産投資家は、何よりもキャッシュフローを重視する。毎月得られる家賃から融資返済額を差し引いた額がいくらになるのかがキャッシュフロー。
現在の融資金利を考えると、20年返済くらいでなんとかギリギリ意味のあるキャッシュフローを出せるのが、この4.5%から5.5%の利回りなのだ。本音を言えば6%以上、欲をかけば10%の利回り物件を求めるのが不動産投資家だ。3、4年前までは丁寧に探せばそういう物件を市場で見つけることができた。今はほとんどない、といっていい。わずかにあっても、あからさまに中身のよくない物件だ。空室リスクが高かったり、予想外のトラブルや修繕費が発生しそうな物件は利回りが高い。しかし、そういうハイリスクな物件には投資しないほうがいい。
堅実な投資を心がけるサラリーマン大家さんたちは、4.5%未満まで利回りが下がった物件には手を出せない。仮に利回りが3%の物件に投資すると、毎月のキャッシュフローが赤字になる。
サラリーマンのワンルームマンション投資なら、利回りが主目的ではないので3%程度の物件もあり得る。というか、新築のワンルームだと投資利回りは軒並み3%台だ。ワンルームマンション投資というものは、中長期ではかなりハイリスクなのだが、多くのサラリーマンは所得税還付に目を奪われてそれに気づいていない。