収益物件市場の「剣が峰」
さて、この利回りが4.5%から5.5%のレンジに、ほとんどの収益物件が入ってしまう現状をどう捉えればいいのだろう。
私は、「上がるところまで上がりきった」状態だと考える。金利は史上最低レベルに張り付いている。これよりも下がりようがないから、投資家もこの先4.5%未満の物件には手を出せない。つまり、収益物件の市場価格は理論的に今よりも上がることはない。ということは、この先どこかで下がり始める可能性があるということ。
もっともわかりやすいのは、金利動向だろう。サラリーマン大家が調達できる銀行融資の金利が1%でも上がれば、収益物件の市場価格は下がらざるを得ない。4.5%から5.5%のレンジが、5.5%から6.5%へと移行するからだ。
たとえば、利回りが4.5%の1億円の物件を、賃料を変えずに5.5%の物件にするには、価格を8182万円にしなければならない。6.5%なら6923万円だ。単純に考えると、投資家にとって調達できる金利が2%上がると、買える物件価格は3割下がることになるのだ。これが市場への下落圧力となることは確実。
だから、この利回りが4.5%から5.5%のレンジにきれいに収まっている現状は、収益物件市場の「剣が峰」ではなかろうか。
バブル崩壊前夜
金利動向はどうだろうか。日本では今のところ史上最低水準が維持されている。日本銀行は金利上昇を神経質なまで警戒しているようにみえる。一方、アメリカは今年中にあと3回の利上げが行われる予定らしい。FRB(米連邦準備制度理事会)のイエレン議長は、常識的なセントラルバンカーだと伝えられている。
史上例を見ない「異次元金融緩和」により、金利を最低水準に導いてきた黒田東彦日銀総裁の任期は来年の4月8日まで。次の総裁が常識的なセントラルバンカーであれば、「異次元」な状態から「正常」な状態を志向するはず。つまり、金利は今の異様な低水準から徐々に上がっていくことも予想される。
黒田総裁の退任が秒読みに入る今年の後半から、金利の先高感が本格化するはずだ。収益物件もふくめた不動産市場全体に、今以上の不透明感が広がるだろう。住宅ローン金利が上がれば、マンション市場にも下落圧力がかかる。しかし、なんといっても金利にもっとも敏感に反応するのは、投資向けの不動産市場だ。
金利上昇の足音が、ひたひたと迫ってきた。不動産の収益物件市場は、まさにバブル崩壊前夜ではなかろうか。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)