そもそも、商品の包装紙以外に年間1000億枚の使い捨て電子タグが、ゴミとなって廃棄されるのは環境上問題ないのだろうか。コンビニ以外の小売店(スーパーマーケット、ホームセンター、家電量販店、ドラッグストア等)でも実施されるようになれば、膨大なゴミが発生する。レジの効率化や人手不足解消策だとしても、そんなことが今の世の中で許されるのだろうか。
新たな人件費発生の懸念
もう一つ実現が難しい理由がある。それは、留保条件の2つ目にあるソースタギングの実現だ。バーコードレジシステムが実現した大きな要因、というより最大の要因は、印刷が簡単にできたからだ。当初は「白黒の線をパッケージに印刷するなんて見苦しい。デザイン上許されない」といわれたが、今では、バーコードが印刷されている商品は当たり前であり、印刷されていない商品よりステータスが高くなっている。
パッケージに印刷することを「ソースマーキング」と呼んでいるが、電子タグは、現状商品に印刷することも、包装紙に埋め込むこともできない。誰かが、あるいは機械が貼付しなければならない。製造者、納入業者、小売店、どこであっても、人手を使って貼付することになれば、人件費がコストに上乗せされる。機械で自動貼付するといっても、商品の形状がさまざまであり、すべての商品に自動貼付する機械を開発するのは並大抵ではない。
人手不足に対処するため、省力化の目的で導入される電子タグが、新たな人件費を発生させたり、新たな機械の開発費や維持費・ランニングコストを発生させるなら、電子タグを導入する意味がない。
GUのような衣料品のタグは、多くの場合、機械で自動的に商品に取り付けることができないので、現在でも人が取り付けている。だから、衣料品の電子タグは、今と同じ人件費と手間で取り付けることができる。
宣言に加わった一流企業が、こうした問題点を把握していないはずはない。しかし、宣言の実現に向けたロードマップには「開発」の文字が多く見られる。電子タグで、食品等と同じソースマーキングが約8年間で実現できるとは、到底考えられない。
国の予算や補助金が25年までにいくら費やされるかわからないが、結局、税金を使っただけで何も実現できなかったということになるのではないだろうか。国も参加した企業、団体も、実現できないことがわかっているからこそ、あえて留保条件を示しているのだろう。
今回は、始まる前から「留保条件を満たせなかったから実現できないのは当然だ」と言っているような宣言だ。本当に、省力化・人手不足解消になるのなら、大手企業は他人の手を借りずに進めるだろう。税金を投入して、国主導でやるような事業なのだろうか。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)