注文住宅高騰…基本性能向上を「理由」に過去5年で2割上昇、安い中小メーカーで十分?
本当に自分たちにとって必要な性能なのか
これだけ住宅の性能が向上しているのだから、住宅価格が高くなるのは仕方がないと考える人も少なくないようです。図表2にあるように、多くの人が多少コストアップになっても、断熱性能の高い住まいに住みたいと考えていますし、そのコストアップの範囲も5%、10%程度なら仕方がない、許容範囲という人が少なくありません。図表3にある通りです。これは、耐震性についても同じような傾向がみられます。生命・財産を守るためには、多少予算が高くつくのも仕方がないということでしょう。
しかし、生命・財産や地球環境などを人質に取られて、値上げを認めざるを得なくなっている――。そんな気にもなってしまいます。
たしかに、震度7に60回耐えられれば安心でしょうが、現実には2回か3回耐えられれば十分かもしれません。高断熱・高気密だって年間光熱費が17.6万円ものプラスにならなくても、プラスマイナスゼロ程度でもいいという人もいるでしょう。
中堅以下のメーカーでも最近はがんばって、大手に近い基本性能の高い住宅を提供できるようになりつつあります。最先端レベルでなくても、一定の安全・安心、快適さを確保できれば問題ないというのなら、1棟単価4000万円の大手でなくても、2000万円以下で可能な中堅でもいいでしょう。
大手の家に住むというプライドでどこまで?
そう考えると、性能アップによる価格の引上げに、どれくらいのユーザーがついてくるのか、ついていけるのか不安を禁じ得ません。
大手には、先に触れたような住宅の基本性能への安心感のほか、大手が建てた家に住むという満足感、大手だからこその経営やメンテナンスなどへの信頼感などがあります。多少高くても、「〇〇が建てた住宅」と人に誇ることができ、またそれなりの安心感や充足感があるのは間違いありません。
でもそのプライドや満足感だけで、2000万円、3000万円の価格差を無視していいものでしょうか。そんな見栄やプライドを捨てれば、2000万円の住まいでも十分という人もけっこう多いはずです。いや、むしろ現在のような先行き不透明感の強い時期であれば、そう考える人が多くなって当然です。
そこで気になるのが、首都圏の新築マンション市場の動向です。10年度には平均4600万円台だったのが、15年度には5617万円まで上がりました。16年度には5541万円に下がったとはいえ、東京都や神奈川県では年収の10倍以上出さないと新築マンションが買えないのは変わりません。
このため、契約率は好不調のボーダーラインといわれる70%を切って68.5%に落ち込んでいます。都心の便利な場所で、最高品質のマンションなのだから、高くても当然というのが分譲サイドの論理でしょうが、それについていけるユーザーは限られています。今後は、よほど思い切った価格の引下げや税制などの支援先がない限り、急速な回復は難しいでしょう。
大手の注文住宅もこれと同じような道を歩んでいないでしょうか。ユーザーの多くがついていけなくなるのではないでしょうか。今後の一戸建て住宅市場動向が気になるところです。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)
●山下和之
住宅ジャーナリスト。各種新聞・雑誌、ポータルサイトなどの取材・原稿制作のほか、単行本執筆、各種セミナー講師、メディア出演など多方面で活動。『山下和之のよい家選び』も好評。主な著書に『よくわかる不動産業界』(日本実業出版社)、『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(学研プラス)など。