不自然な価格高騰を助長する行為をやめる
ただ、こういったさまざまな外的要因を見つけ出してあれこれと処置を講ずるだけでは、この不自然な価格高騰を抑えることはできない。最も不自然な現象は、このバカ高くなった都心のマンションを、不自然とは思わずに買っている人がいるということなのだ。
私は一般の方々からマンション購入の相談を受けることが多い。常々感じることは、多くの人は不動産を購入することに大いなる歓びを感じている。興奮もする。つまりテンションを上げてしまうのだ。そのこと自体は悪くない。マイホームを持ったり、収益を上げてくれる不動産を所有することは人にとって大きな喜びだ。
しかし、テンションが上がり過ぎると普通なら見えるものも見えなくなってしまう。
「こんな価格、いくらなんでもおかしいだろう」
そう思う人が多数派になれば、高くなったマンションは売れなくなる。売れないと、価格が下がり始める。
私はマンション市場を眺めて、あれこれと自分の考えを書いたり話したりするのが仕事だ。この30年ほど、首都圏のマンション市場を継続してウォッチしてきた。私から見ると、今の市場は明らかに不健全だ。その理由は、年収1000万円の方でもまともなマンションが買えない現実がある一方で、マンション自体は新築も中古も賃貸も、市場では余っているという、市場原理では説明の困難な現象の共存状態。これがなんとも不健全なのだ。
さらに不思議なことに、バカ高くなったマンションを「さらに上がる」という思惑を持って購入している人々が少なからずいる、という実に不可解な購買行動。
都心の超の付く一等地で建設が進められている、とある新築マンション。立地も最高だが、価格も最高水準。不動産業界人なら「あれが今回のバブルの最高峰か」と思える物件だ。
私は今まで、そのマンションについての購入相談を3件ほど受けた。驚いたことに、その3件すべてが転売目的での購入だった。その内、2件はすでに購入したあとで、私への相談は売却についてだった。
不動産業界では、17年に入ってピークアウト感が定着し始めた。6月に出版された拙著『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)は、たちまち増刷が決まった。世間が「そろそろ不動産価格は峠を越した」と気づき始めた兆しではなかろうか。
私が「局地バブル」と呼ぶ地域限定の不自然な不動産価格の上昇も、ある一面「買う人がいる」から継続、拡大してきたわけである。その「買う人」の中のかなりの割合が、住むためではなく、値上がり期待や相続税対策が目的だったが、これは不健全だ。
だから、多くの人がそういう不自然な価格高騰を助長する不動産の購入をやめれば、市場は健全な状態に戻ろうとする。すなわち、不自然に上がった不動産価格の下落。そうなれば、年収1000万円の人が山手線内でまともなマンションを買える、という自然な状態に戻る。
不自然な現象を起こしている不健全な購買行動は厳に慎むべきだろう。そうすることで将来の損失を回避できる。同時に、このゆがんだ都心のマンション市場を自然かつ健全な状態へと導くことができる。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)