余談ですが、アメリカの債券ファンド「パシフィック・インベスト・マネージメント(PIMCO)」の運用責任者、ビル・グロースが「リーマンショック以降、“新しい普通の基準=ニューノーマル”というものができた。昔のいい時代のようには、戻らない。景気が回復しても、金利は昔のようには上がらない」と言いました。4日5月初め、“投資の神様”ウォーレン・バフェットが世界最大の投資会社「バークシャー・ハサウェイ」の年次株主総会でこの“ニューノーマル”という言葉に言及し、こう言ってます。「“ニューノーマル”という言葉があるけれども、私はそうならないと思う。景気が回復すれば、やはり昔のように金利が上がる」と言ってます。僕もそう思います。
日本も多少の金利上昇はあるでしょうが、アメリカのほうが大幅に金利上昇することによって、その金利差が開くと思います。
●日本の財政と円安
–今回の円安為替動向は、現在の財政悪化状況の中で、日本の財政にどんな影響を与えていくと思われますか?
吉田 例えば、日本の国債を買っている海外投資家にとっては、円安になると為替で損をします。そうすると、売る可能性が出てきます。円安が加速し海外投資家がいよいよ日本国債を売るようになったら、そうではなくとも財政破綻リスクを抱えている日本国債ということもあり、「ついには暴落の引き金になってしまうのではないのか」と懸念している方もいると思います。
財政破綻が起こる一番の要因は、やはり景気です。直近の財政危機の代表例としては、10〜11年頃から本格化した「ユーロ危機」がありました。あれなどわかりやすいのですが、あの頃、ちょうどリーマンショックなどで“100年に1度の危機”の後の世界景気低迷期にあったわけです。世界景気が低迷期にあると、やはりグローバリゼーションの世の中でもありヨーロッパの景気も低迷し、景気が低迷するとやはり税収も減るわけです。財政というのは、すなわち税収ですから。
日本の財政の脆弱性が表面化するかどうかも、すなわち景気がいいか悪いか、それにより税収が増えるか減るかということが一番の鍵です。
当面のドル高円安局面においては、アメリカの金利が上がると僕は思っているくらいなので、景気が回復していくと思っているわけです。そうすると、日本も税収が増えるでしょうから、税収が増える中で財政危機が拡大するというのは普通はありえないと思っています。そんなことから、今後2〜3年のドル高円安局面で、日本の財政危機が表面化するかたちにはならないと思ってます。
ただし、2020年とか2030年とかいうスパンの話になってくると、それはわからないです。
これまで僕が話したのは今後2〜3年くらい、15年あたりにかけては「120円まで円安になると思いますよ、超円安になると思いますよ」ということと、その局面で「円安なので日本の財政危機も表面化するかといえば、それはないと思いますよ」ということです。その後、また円高になったり円安になったりを繰り返していくうちに、これから10〜20年先となってくると“景気後退局面での円安”というのも出てくる可能性があります。これは確かに危険です。
景気後退したら、当然税収が減ります。もともと残高ベースでは返せないといわれているぐらいの借金を抱えているわけですから、これで税収まで減ってしまうといよいよ「もう借金棒引きしかない」というような岐路を迎えてしまいます。
そんな時に円安になっていると、全体の1割ぐらいしか日本の国債持っていない海外投資家もいよいよ売るでしょうし、日本人も国債買うのが馬鹿らしくてドル買いに走ったりすると、そこは危ないですよね。
そうなってくると、日本の財政危機でいわゆる「悪い円安」が起こるというシナリオは十分あり得ると思います。ただしここ3~5年の間には起こらないとは思います。
●「いい円安」「悪い円安」
–「いい円安」と「悪い円安」の、簡単な見分け方を教えていただけますか?