吉田 物事にはもちろん両面があります。円安になって金融価格が上がったり、食品会社でも値上げをせざるを得なくなったりしています。なので一概には言い切れませんが、全体的な文脈での「いい円安」「悪い円安」というものはあります。
一番簡単な見分け方としては、その円安が金利と連動するのか逆行しているのかを見分けるということです。円の金利が下がっている中、または安定している中、円相場が下がるのは普通のことです。
しかし、円が下がっているのに円の金利が上がるというのは、日本からのキャピタルフライト(資本逃避)が起こっているということです。円の金利とはすなわち国債の利回りのことです。円が下がっているのに円の金利が上がるということは、すなわち国債価格が下がっている、売られているということを意味します。円が下がっているのに円の金利が上がっているという状態、つまり金利と逆行して円安が進むという状態は「悪い円安」です。
円の金利が安定したり、ましてや円の金利が下がっているんだったら、円が下がっていても、それは当たり前のこと。自然な円安です。普通の円安。それによって恩恵を被る人が多い「いい円安」ということになります。
–先ほど、将来的には「いい円安」「悪い円安」になるかはわからないともおっしゃいました。今後、日本人はどのように為替という世界と付き合っていくことになると思いますか?
吉田 1971年の「ニクソンショック」で360円から始まり、40年間続いた円高が終わり、今は長期円安時代に入っていると考えています。小規模な循環を繰り返しながらも、長期的には円安が加速していく局面です。将来、10年後には1ドル150円とか200円など、さらに円安になっているだろうと思います。
1970年代以降、日本は「貿易黒字大国」だという認識があったから、長期円高というのが成り立っていたわけです。ところが高度成長はもう終わり、「失われた20年」の間についに黒字もなくなりました。
長期円高を支えてきた要因が、もうなくなってしまったのです。だから現在、長期円安が始まろうとしているわけですが、途中でそれが加速し「悪い円安」になったりするのも、長期的に考えると十分あり得ると思います。
その「悪い円安」は先ほど話したように“金利と逆行する円安”のことで、これが出てくると怖いですよね。そうなると、国内資産しか持っていないということのほうが不自然になってくるわけです。だから為替に不慣れな人や円のことをわからない人でも、海外投資をしなくてはならないような気分も広がるでしょうし、為替外貨資産を持たないことがリスクとなるような時代へと、長期的にはなっていくんでしょうね。
(構成=編集部)●吉田 恒(よしだ・ひさし)
国際金融アナリスト。1962年、青森県生まれ。85年、立教大学文学部卒業。大手投資情報会社で編集長、代表取締役社長などを歴任する一方、為替を中心とした国際金融市場分析の専門家としても活躍。2011年7月から、米国を本拠とするグローバル投資のリサーチャーズ・チーム、「Market Editors(マーケットエディターズ)」の日本代表に就任する傍ら、国際金融アナリストとして、精力的に執筆・講演活動を行っている。また、これまでの活動実績を評価され、現在FX会社が主催する投資教育プロジェクト、「M2JFXアカデミア」の学長も務めている。主な著書は『FX7つの成功法則』(ダイヤモンド社)、『アノマリーで儲ける! FX投資術』(双葉社)、『FXドリームチームが教える為替の鉄則』(共著、扶桑社)など多数、DVD『こうすれば為替予想は当てられる』(パンローリング)がある。
●吉田恒氏 最新刊『これから来る!「超円安」・「超株高」の本命シナリオ』(カンゼン)