最近、ロボットアドバイザー(ロボアド)が人気になっています。自動で運用してくれる手軽さが人気で、運用資産はこの数年で数十倍にも増えています。確かに、「AI(人工知能)で最適なポートフォリオを選択」「ノーベル賞理論に基づいたアルゴリズムで運用」などという言葉を聞くと、高度な技術を使って資産を増やしてくれるような気がします。
しかし、ロボアドの運用会社が意図するのとは別に、「ロボットによる運用はすごい」との誤解も少なくないようです。その誤解を解きながら、ロボアドのメリットを考えてみましょう。
ロボアドは、主に個人投資家を対象にした投資アドバイスのことです。いくつかの質問に答えると、その投資家に適した運用方法を提案してくれ、資金を預けると運用を行ってくれます。投資家はお金を入金するだけで、投資商品の選択から売買、運用中の見直しまでの一切を自動で行ってくれますので、楽して資産運用ができます。
投資に不慣れな初心者には便利な投資手法ですが、ロボアドが話題になるとともに、誤解に基づいた認識も生まれています。
その1「ロボアドが、上がる株を選んでくれる」
ロボアドが選ぶ投資先は、主にETF(上場投資信託)です。ETFは証券取引所で売買される投資信託で、投資対象(株式や債券など)全体の動きを反映するようにつくられています。株式のETFであれば、株式市場の“平均”と同じような動きとなり、特別に上昇することはありません。株式の中には、市場平均よりも大きく上昇する銘柄もありますが、そもそもロボアドはそのような銘柄を選んでいませんので、ロボアドでの運用で、市場平均よりも大きく上昇することはありません。
その2「経済環境に合わせて最適な運用をするので、値下がりを避けられる」
ロボアドは、投資家のリスク許容度に応じて、それに合わせた資産の組み合わせで運用を行います。リスク許容度とは、資産価格の変動をどれくらい受け入れられるかの程度のことです。心配性な人には安全性が高い組み合わせ、ヤマっ気のある人には変動性が高い組み合わせでの運用となります。運用している間にバランスが崩れた際には、元に戻すように調整してくれますが、経済状況によって運用を変えるわけではありません。
よって程度の差はありますが、下がる時は下がります。リーマン・ショックのように、すべての資産が下がる状況になれば、どのような組み合わせでも多かれ少なかれ損失が発生します。
ロボアドのメリットとは?
では、ロボアドは何をしてくれるのでしょうか?
パソコンやスマホでロボアドでの運用を申し込むと、投資経験や運用の目的、どのくらいの損失を許容できるか、などの質問がされます。それに答えることで、その投資家のリスク許容度のランクが判定されます。AIを活用することで、5問程度の質問でその人のリスク許容度が分析できるということです。
その上で、そのランクに応じたコースを選択すると、それにあったリスクになるように、ロボアドが資産を組み合わせて投資をしてくれます。資産の組み合わせでリスクの程度を調整するのには、投資理論によるアルゴリズム(計算方法)が使われています。
AIが自分のリスク許容度を判定してくれるロボアドですが、実際には判定されたランクよりもリスクが高いコースを選択する人が多いそうです。どうしてせっかくの分析を無視して高いリスクを選ぶ人が多いのでしょうか?
ロボアドでの運用を行っている人の多くは、全財産をそれにつぎ込んでいるわけではありません。多くを預貯金などで安全に確保しておき、ほんの一部だけをロボアドに任せるのであれば、損失となってもそれほど問題はありません。それであれば、思い切って高いリスクのコースを選ぶこともできます。
つまり、多くの投資家はロボアドで運用する資金の量を調節することで、その人の資産全体のリスクを調整しているのです。リスク資産の割合を調整することで資産全体のリスクを調整するという手法は、投資理論の本質です。ロボアドに言われるまでもなく、たいていの人は自然とこれをやっているわけです。
基本的には、ロボアドでの運用は、「バランス型ファンド」といわれる投資信託を購入するのと、それほど変わりはありません。ただ、バランス型ファンドといっても玉石混交で、数多くありますので、選択するだけでも大変です。また、運用している間に崩れたバランスを調整してくれるかもファンドによって異なります。自分でバランスを調整するとなると、情報入手や売買の手間がかかります。
ロボアドを利用すると、ファンドの費用とは別に1%前後の手数料がかかります。それでも自分で投資先を選択、管理する手間を省きたいという人にとっては、ロボアドは魅力ある運用方法だといえるでしょう。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)