至れり尽くせりの「財形貯蓄」をやらない理由がない…何もせず住宅購入の頭金が貯まる
ただ税制上のメリットを考慮すると、「財形住宅」あるいは「財形年金」のいずれかを選びたい。ライフプラン上、新社会人が始めるなら財形住宅となるだろうか。なお、非課税扱いとなるのは2つをあわせて元利合計550万円までだが、まず財形住宅で550万円の非課税枠まで積み立て、マイホーム購入やリフォームなどで全額払い出しをした後、財形年金をスタートさせれば、1100万円まで非課税枠が広がる。
ただし、貯蓄目的を問わない一般財形と異なり、財形住宅と財形年金は目的が決まっている。仮に、目的外の払い出しをした場合、解約利子が課税されるだけでなく、5年遡って、その間に非課税で支払われた利子も課税扱いとなって追徴されるというペナルティーがある。
しかし、もともと一般財形には非課税枠がないわけだから、住宅を購入しない可能性アリだとしても、課税されるリスクを考慮した上で、あえて財形住宅から行うのも一手だ。
なお、財形貯蓄の目的外払い出しについては、改正が行われている。
平成29年4月以降、目的外払い出し時の非課税特例の範囲が拡充。災害や疾病で高額な医療費(年間200万円超)など一定の理由を満たした場合(以下の図表参照)、非課税で払い出すことが認められているが、財形年金に加えて、財形住宅も対象に加えられた(図表2参照)。
いわば、なんらかの事情が生じた場合、非課税のまま払い出しができることは覚えておきたい。
非課税枠のない「一般財形」にはメリットなし?
一方で、あまりメリットがなさそうな一般財形だが、積立開始から1年経過後は、いつでも自由に引き出しができる。また、財形制度には「財形給付金(基金)制度」という“ご褒美”制度が設けられている会社もある。
これは、事業主が毎年財形貯蓄を行う勤労者1人につき10万円を上限に拠出を行い、7年経過ごとにその拠出金と運用益の合計額を給付金として勤労者に支払うという、いわば貯蓄奨励策だ。
財形住宅融資は財産形成という自助努力の見返り
さらに、前述のメリットにも挙げたように、マイホーム購入時には「財形持家転貸融資」という融資制度が受けられる。適用要件は、財形の種類を問わず、1年以上継続し、財形貯蓄残高が50万円以上あること。
融資額は財形貯蓄残高の10倍相当額以内(最高4000万円)で、実際に必要な額の90%相当以内。返済期間は最長35年(リフォームは20年)で、融資金利は5年ごとに適用金利を見直す5年固定金利制。平成30年4月時点での適用金利は、0.67%となっている。
また財形住宅融資には、特例措置として東日本大震災の被災者を対象にした「(1)東日本大震災特例措置」や豪雨・地震等の自然災害の罹災者を対象にした「(2)災害融資」などがあるほか、「(3)子育て勤労者支援貸付金引下げ特例措置」(18歳以下の子を扶養している勤労者を対象)と「(4)中小企業勤労者貸付金利引下げ特例措置」(常用労働者300人以下の企業の勤労者を対象)が設けられている。
特例の重複適用はできないが、受けられる可能性の高い(3)(4)については、それぞれ適用された場合、当初5年間の金利がさらに0.2%引き下げとなる(受付期間は、平成31年3月中旬までの新規受付分まで)。
財形住宅融資は長期固定で安心の「フラット35」の組み合わせも可
財形住宅融資は、「フラット35」や民間金融機関の住宅ローンと組み合わせることも可能だ。とくに財形住宅融資とフラット35を併用する場合、後者の融資手数料が引き下げとなるなどメリットも大きい。
なお、財形住宅金融株式会社(以下、財住金)の行うフラット35には「財住金フラット35」に加え、2017年10月から「フラット35エース」も取り扱いがスタートしている。
長期固定金利型住宅ローンの代表格ともいうべき「フラット35」だが、「買取型」と「保証型」の2つのタイプがあることはあまり知られていない。その違いは、図表3の通りだが、多くの金融機関で取り扱われているのは前者で、後者の新規受け付けを行っている金融機関は、財住金を含め、「日本住宅ローン株式会社」「アルヒ株式会社」の3社のみ。
これまで融資実績が低迷していた保証型だが、買取型よりも金利水準が低く、商品設計の自由度から最近、注目を集めているという。
「財形貯蓄」+「つみたてNISA」で税制優遇をフルに活用
税制優遇が受けられる積立制度といえば、財形貯蓄以外に「NISA(少額投資非課税制度)」を思い浮かべる人もいるだろう。2014年から始まった制度で、2016年からは20歳未満を対象とした「ジュニアNISA」も創設された。
さらに、新社会人にオススメしたいのは2018年1月からスタートしている「つみたてNISA」だ。つみたてNISAは、投資した年から最長20年間の収益が非課税となる。非課税期間が最長5年間である従来のNISAと比べると、長期の非課税期間が設けられている。
年間投資枠の上限は40万円と通常のNISA(上限120万円)より少ないが、対象商品は、あらかじめ手数料が割安で、分配金の支払い頻度が多くないなど、長期の積立や分散投資に適した一定の公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)に絞られている。
要するに、あらかじめ投資ビギナー向きのラインナップに限定されているため、少額からでも投資をスタートさせたい新社会人が始めるのに最適な商品といえるだろう。
勤務先に財形貯蓄制度がない場合は、つみたてNISAを活用したいが、可能なら併用する方法もある。
たとえば、23歳で入社して、住宅財形を毎月2万円×12カ月→24万円、ボーナス時10万円×2回→20万円、年間合計44万円を積み立てれば、12.5年後(36歳)には、住宅購入の頭金として額面550万円が準備できる。
さらに、つみたてNISAで、毎月2万円×12カ月→24万円、ボーナス時8万円×2回→16万円、年間合計40万円を積み立てれば、20年後(43歳)に800万円が準備できる計算だ。
大学卒の初任給が約20万円だから、2つを並行して始めると、だいたい2割を貯蓄に回すイメージとなる。最初はちょっとキツイと感じられるかもしれないが、お金が貯まっていく感覚が身に付けばしめたもの。ある程度、残高が増えれば、金融商品の選択肢もおのずと広がるので、ぜひともがんばってみてほしい。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)