音楽文化の違いによる運営方法の違い
もともと、王族や貴族がパトロンとなって音楽文化が育って来たヨーロッパ。革命後、引き継いだそれぞれの国の政府が、自分たちの文化に対して、当然のごとく援助をし続けました。そんなわけで、集客意識よりも、どれだけ文化を高められるかということに重点が置かれる場合が多く、採算度外視の企画もやりやすいといえます。結果、意欲的なプログラムを組みやすいことが、ヨーロッパ文化を常に育てているといえます。
アメリカの場合は、かなり事情が違います。彼らは、もともとヨーロッパからの移民です。王侯貴族もおらず、そもそもヨーロッパ文化がないアメリカ大陸にやってきました。そんななかで、自分たちのルーツに対する郷愁も手伝い、故国の人以上に、文化を熱心に想い続けたのです。自分たちで教会をつくり、学校や病院をつくったように、音楽文化に対しても、自分たちでお金を出し合ってきました。今でもアメリカでは、オーケストラの予算のほとんどが、個人や企業の寄付金で賄われています。
たとえば、世界的なオーケストラであるニューヨーク・フィルハーモニック管弦楽団は、1842年に創設されたアメリカ最古参のオーケストラです。ここもやはり、事業で大成功を収めた音楽愛好家たちによって創設されていますが、現代でも構図は同じです。彼らの年間収入は1億ドルくらいありますが、チケット収入は4分の1程度です。残りのほとんどは個人や企業の寄付金で賄われているのです。なんと公的資金は1%くらいしかありません。
アメリカの寄付金システムはものすごく興味深いものですので、またの機会に書かせていただきます。
ヨーロッパ型、アメリカ型のどちらにも属さない国として、英国は折衷的です。国や市の予算だけでは足りず、スポンサー企業を探して、やりくりをしているわけです。
最後に日本のオーケストラ。もともと、日本にはオーケストラがありませんでした。そこで、音楽家たちが、自分たちでオーケストラをつくったのが始まりです。そんなわけで、さまざまな運営形体があります。放送局や地方自治体が全面的に援助し、財政基盤がしっかりしているヨーロッパ的オーケストラや、企業が全面的にバックアップしているアメリカ的オーケストラもあります。しかし、ほとんどは英国的なオーケストラです。
つまり、地方自治体や、国に援助をもらいながら、それだけでは足りないので自分たちで企業スポンサーを募って、なんとかやりくりしているのです。まだまだ財政的に厳しく、楽員の給料も低く抑えないと存続も難しいオーケストラも数多くあります。ただ、共通していえることは、楽員という被雇用者も、事務局という雇用者と一体となって、自分のオーケストラのためにがんばっているという点です。まるで、日本の企業と海外の企業の違いを見るようです。
僕は、指揮者になって25年になりました。幸運なことに、ロサンジェルス・フィルハーモニック管弦楽団副指揮者、フィンランドのキュミ・シンフォニエッタの首席指揮者、そして、日本では静岡交響楽団の常任指揮者を務めながら、長く在住していた英国のオーケストラをはじめ、ドイツ、北欧、東欧でも指揮活動をすることにより、いろいろな国の民族、文化を実際の目で見てきました。その結果、オーケストラを通じて、国の違いが見えてきました。
(文=篠崎靖男/指揮者)