「調査当日は、2人の調査官がやってきました。ひとりだと思っていたので少し驚きました。世間話をしてから、妻の会社について聞かれ、妻の会社は私の会社と同業ですが、直接の取引はない旨を答えました。
妻の会社では、500万円単位の取引が月に数回あって、それについて何か情報を持っているらしく、何回も聞いてきます。500万円は同じ会社への外注費なのですが、それが回り回って私の会社や私個人に流れているのではないかと考えているようです。決してそんなことはないのですが、彼らの調査は、否定する私だけではなく取引先にも及びました。『反面調査』です。
反面調査は、後日行われました。『反面調査をします』とは教えてくれないので、取引先から『今、税務署が来ている』という電話で知り、『言う通りにして』と言いました。さっさと疑惑を晴らして、あきらめてもらったほうがいいと思ったのです。
また、2億円の融資を行ったことがあるのですが、その会社からの売上があって、それをキックバックと想定した調査も行われているようでした。2億円を融資したのは、その会社のサービスが提供されれば、市場が活況を呈すると考えたからです。しかし、その会社とビジネスもしていたので、売上が1000万円ほどありました。向こうからすると『外注費』になっていると思います。
それを、融資に対するキックバックと考えていたようです。しかし、帳簿を見てもらえばわかるのですが、私が個人的に受けとったお金ではなく、あくまで法人の売上です。しっかりと申告もしています。そこに目をつけたのは、どうやら第三者からのタレコミがあったからのようです。
さらに、取引のあったNPO法人にも反面調査がありました。すべての取引先に反面調査があったことになります。このNPOは実態がなく、わたしの法人の所得を減らすために存在すると想定されていたようです。ここに外注費を払えば法人の所得は減りますし、NPO法人は収益事業にならなければ、法人税を払う必要がないからです。それを私がすべてひとりで行って納税額を圧縮していると決めてかかっていました。
NPOの人たちに迷惑をかけてしまいました。あとで聞いた話ですが、そのNPO法人は、収益事業があったにもかかわらず納税しておらず、税務調査によって追徴課税されたそうです。私への調査のせいで、そちらにも調査があったと考えると心苦しい気持ちになります。
想定していた不正が見つからなかったためか、帳簿を吟味して、申告の誤りや個人的な支払いを見つけようとしていました。法人と私個人のミスも含め、追徴課税は5年分で300万円ほどだったと思います。すぐに修正申告に応じました」
税務調査は、タレコミに基づいて進められることがあります。それらの解明のために反面調査も行います。今回のように、それが誤解であれば、帳簿を確認して、個人的な使い込みや期ズレを探すでしょう。しかし、反面調査などで時間を取られた分、帳簿を見る時間は短くなってしまいます。優秀な特別国税調査官であっても、初手を誤れば結果を出せないことがあるようです。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)