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さんきゅう倉田「税務調査の与太話」

不必要に印紙税納税→税金の還付申請したら税務署が却下!

文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人

 書類作成の経緯として、Aさんは銀行から融資を受けて不動産を購入していました。ある日、B銀行のバンカーと話をしたところ、借り換えにより返済額を減らせることを知ります。きっと金利の関係で、そのほうが得になると判断したのでしょう。AさんはB銀行のバンカーを自宅に招き、新たな融資のために「金銭消費貸借契約証書」を作成、連帯保証人4名にも署名捺印してもらい2万円を預け、印紙の貼付を依頼しました。これで書類の作成は完了です。

 しかし、その後に、B銀行より有利な条件で借り換えが可能であるC銀行を見つけ、そちらと契約することにしました。B銀行からの借り入れを中止することにしたAさんはB銀行のバンカーに連絡し契約を破棄、融資は実行されませんでした。そこで、以前作成した「金銭消費貸借契約証書」を使用する見込みがなくなったとして還付を求めたわけです。

 確かに、契約はしたけれど融資はされなかったので、使用する見込みがなくなったと考える人もいるかもしれません。ただ、一度契約は結ばれ、契約内容が実行されなかったにすぎません。印紙税法では、印紙税の納税義務は「課税文書の作成の時に成立する」とされています。また、印紙税法には非課税文書の規定もありますが、今回の「金銭消費貸借契約証書」が非課税文書に該当しないことは明らかでした。また、この証書の作成日は、証書に署名押印をしてB銀行に差し入れた日であるので、融資が実行されなくなっても印紙税は還付されないのです。

 それでもAさんは、「使用する見込みがなくなった場合」に該当すると主張しました。しかし、契約を成立させることについて合意があり、文書に署名押印をした上、これをB銀行に差し入れて「行使」しているのであるから、「使用する見込みのなくなった場合」、より正確に言うと「損傷、汚染、書損その他の理由により使用する見込みのなくなった場合」には該当せず、Aさんの主張は正当性がありません。

 結果、国税側の処分が認められることになりました。

 不測の事態で契約内容を実行せずとも、一度契約書を作成したら、使用した印紙は無駄になってしまう、つまり印紙代は返ってきません。そんな事案でした。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)

さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人

さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人

大学卒業後、国税専門官試験を受けて合格し国税庁職員として東京国税局に入庁。法人税の調査などを行った。退職後、NSC東京校に入学し、現在お笑い芸人として活躍中。著書に『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』(総合法令出版)、『お金持ちがしない42のこと』(Kindle版)がある。
さんきゅう倉田公式ホームページ

Twitter:@thankyoukurata

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