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黒田尚子「『足るを知る』のマネー学」

病気などで「働けなくなるリスク」の本当の恐ろしさ…収入も年金も退職金も減る

文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー

 医療の進歩もさることながら、国は国民医療費抑制のため長期入院の適正化を推進している。入院の必要性がないと判断されれば、通院治療となり、医療保険の入院給付金は受け取れない。在宅療養となった場合でも、生活費や住宅ローン、子どもの教育費など、毎月かかるお金は変わらないのだ。

がんに罹患した場合、フルタイム復帰まで半年以上かかる

 では、病気で休職してから職場復帰までの必要日数はどうだろうか?

 がんに罹患した場合で考えてみよう。がん罹患した社員の病休・復職実態追跡調査によると、がんの治療のために休職(病休・欠勤等)した社員がフルタイムで復帰できるようになるまで、がん全体で平均201日。時短勤務ができるようになるまで平均80日を要するという。

 大企業であれば、病休の制度など充実しているが、中小企業であれば、欠勤扱いで会社に残れるのはせいぜい3カ月から半年程度。となるとフルタイムで復職できるようになるまで6カ月以上かかるとなれば、非常に厳しい状況に陥る可能性も出てくる。

傷病手当金の支給期間の平均は6カ月足らず

 もちろん、会社を休職した場合に利用できる公的制度として「傷病手当金」がある。これは、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた所得補償制度。被保険者が会社を休業し、事業主から十分な報酬が得られない場合に給料の3分の2が支給される。例えば、毎月の給料が30万円なら20万円は傷病手当金として受け取れる。

 ただし、傷病手当金は会社員など被用者にのみ適用される制度で自営業者・自由業者にはない。また、支給期間は最長でも1年6カ月となっているが、協会けんぽの「現金給付受給者状況調査(平成29年度)」によると、実際の支給期間の平均は約5.5カ月程度。精神および行動の障害が209.11日、神経系の疾患が190.08日、循環器系の疾患が189.54日だが、がんなどの新生物でも179.66日など、“もらえる”期間と実際に“もらう”期間には大きな隔たりがあることも知っておきたい。

働けなくなるリスクがもたらす本当の恐ろしさとは

 さて、以上のことを踏まえた上で、働けなくなるリスクがもたらす恐ろしさとは、毎月の収入が減少or途絶えることだけではない。もっと注意すべきは、継続的な収入減少による生涯年収への影響だ。つまり、病気やケガで働けないことで毎月の収入が減る→60歳など定年退職時の退職金が減る→65歳以降の公的年金の受給額が減る、といったように、一生で受け取れる収入が減少することが最も恐ろしいことであり、それに多くの人は気づいていない。

 それを回避するためには、まずは病気になっても安易に仕事を辞めないこと。少額でも安定して収入を得られる仕事に従事することが一番のリスクヘッジの方法である。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

 1969年富山県富山市生まれ。立命館大学法学部卒業後、1992年、株式会社日本総合研究所に入社。在職中に、FP資格を取得し、1997年同社退社。翌年、独立系FPとして転身を図る。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」のファシリテーター、NPO法人キャンサーネットジャパン・アドバイザリーボード(外部評価委員会)メンバー、NPO法人がんと暮らしを考える会理事なども務める。著書に「がんとお金の本」、「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)など。近著は「親の介護とお金が心配です」(主婦の友社)(監修)(6月21日発売)
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