「タワーマンションの上層階を購入すれば相続税対策に効果的」
当時は、実際にその通りだった。タワマンの上層階を1億円で購入しても、相続税の評価額は2000万円程度だった。だから相続税を心配した富裕層が、売り出し中のタワマン上層階をせっせと買い始めたのだ。
さらに「日本の不動産はまだまだ安い」ということを聞きつけた東アジア系の外国人が、都心エリアのマンションを買い漁り始めた。2016年頃の爆買いは、その対象が化粧品や医薬品だけではなく、マンション市場でも起こっていたのだ。
こういった要因も加わって2015年と16年は都心エリアを中心とした局地バブルが燃え盛ったといっていい状況だった。
その後、国税庁が相続税の評価方法を変更する通達を出したり、チャイナショックで危機感を強めた中国当局が外貨の持ち出しを厳しく制限したり、といったこともあって相続税対策と外国人の爆買いは市場から消えた。
しかし、都心エリアの土地価格は上昇を続けて今に至っている。都心につられて土地の価格が上った城南エリアでも、新築マンションの価格が高騰。しかし消費者が付いてこれず、軒並み完成在庫化する現象が2017年頃から見られ始めた。
2018年、それでも高くなった新築マンションはそれなりに売れていた。8000万円前後の新築マンションを購入しているのは、パワーカップルと呼ばれる人々。夫婦合わせての世帯所得が1400万円以上。彼らがペアローンを組んで8000万円前後のマンションを買うのだ。低金利の今だからこそ可能な購入方法だ。
2019年、新築マンション市場の主役は実需層だ。つまり「住むため」にマンションを買う人々。しかし、山手線の内側なら最低でも1億円くらいの予算を用意しないと、家族4人でそれなりに住めるマンションは買えない。山手線の外側の23区内だと、予算は6000万円前後になる。
6000万円のマンションを独力で購入するためには年収が900万円程度は必要だ。2017年 国税庁「民間給与実態統計調査」によると年収900万円以上は給与所得者の6.35%。ほとんどの人は新築マンションが買えない状態なのだ。だから、市場を見ていても「売れていない」と思える状態。
つまり需給バランス的には完全な供給過剰。いつ市場価格が下落に転じてもおかしくない。しかし、実際には下がらない。理由はハッキリしている。
供給側がおおっぴらには価格を下げないからだ。ただ、水面下では値引きをしている様子が窺える。市場を見ていると、値引きに躊躇しないデベロッパーの物件は比較的短期間で完売に至っている。値引きを頑なに拒むデベロッパーの物件は、いつまでも完売しない。
山高ければ谷深し
さて、この局地バブルはいつ終わるのだろうか。またマンションを始めとした不動産の価格はいつ下がり始めるのか。
もっともわかりやすいのは、日銀の金融政策が緩和から引締めに転じた時だろう。かつての平成大バブルは、当時の三重野日銀総裁が「バブル退治」と称して急激な金融引締めを行った結果、見事に弾けてしまった。しかし、日銀が金融政策を引締めに転じる気配は今のところ皆無だ。黒田総裁の任期もあと4年ある。最長4年は今の異次元「緩和」が続くと考えるべきだ。
前回の不動産ミニバブル(ファンドバブル)はリーマンショックによる世界同時不況の発生で急速に萎んだ。今、中国経済が喘いでいる。アメリカとの貿易摩擦や国内のバブル対策でかなり苦しそうだ。中国がわかりやすいかたちで経済不振になれば、その影響は世界的なものとなるだろう。もちろん、日本経済にも少なからぬ打撃となるはずだ。
不動産担保融資の残高は、すでに平成大バブルの規模を大きく超えている。不動産価格がハッキリと下落に転じた場合、そのうちの何割かが不良債権化する。無理をして組んだ住宅ローンも、資産価値がローン残高を下回るケースが多発するはずだ。売るに売れない状態。
山高ければ谷深し。本来の需給関係以外の要因で膨らんだ今回の局地バブル。のちのちの傷を深くしないために、そろそろ緩やかな下降線に入ってもらいたいのだが――。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)