ジュディマリ、GLAY…伝説の音楽P、故・佐久間正英は、なぜ絶大な信頼を得たのか?
とはいえ、佐久間さんのインタビューを読んでいると、すべてをバンドで解決せねばならないという考えはない。人間関係がムチャクチャでも、音に出なければ良しとしたリアリストであったし、あるいはバンドメンバーの欠如も同様だ。GLAYにドラマーがいないことも是とし、某アーティストなどはメンバーが抜けて音楽的に良くなった、とも述べる。あくまで結果として残せる音楽、残せる楽曲のクオリティのみに意識を集中していた。つまりバンド万能主義ではなく、メンバーがそれぞれの才能を生かせれば良しとする、バンド「的」手法論でヒットを作り上げてきたように思う。
●目指したもの
ところで氏はヒットメーカーとして知られる一方で、氏を突き動かす源泉についてはさほど論じられていない。テレビ、雑誌、書籍、ネット……多くのメディアで氏が述べてきたことからするに、その源泉は、音楽への純粋な興味であり、学生時代から続く「人間そのもの」への関心だった。
佐久間さんは、ことあるごとに「100万枚売れるアーティストがひとりいるより、1万枚売れるアーティストが100人いるほうが文化として正しい」と述べ、音楽の多様性が認められる社会を理想とした。それは氏のプロデュース範囲が広いこととも無関係ではない。「仕事を受ける基準は、スケジュールが合うか合わないかだけしかない」(「音楽主義」 (日本音楽制作者連盟/14年1月号)のを死の寸前まで貫いていたのだから。
「いろんな音楽が好きっていうより、いろんな人と知り合いたい気持ちがまずあるんですよ」「毎日いい仕事をして、いいものだけが売れるんだということを信じていたいだけですから」(「週刊プレイボーイ」<集英社/01年5月22日号>)
「僕の楽しみはレコーディングという作業を通じて人と接していること。会話や演奏に感動できたり、歌やギターに感動したときに、やっててよかったと思います」(「JUNON」<前出>)
そして、自著『直伝指導! 実力派プレイヤーへの指標』では、佐久間さんの感動的な文章で締めくくられている。
「音楽は、働きかけさえすれば、その分、何かを必ず返してくれるはずです。そうやっていつか、あなたしか手に入れることのできない、あなただけの音楽を手にしてください」
佐久間さんから生まれたアーティストたちは、私たちを楽しませ続けている。さらにその影響はひと世代下のアーティストたちに及んでいる。今後、この連鎖はどこまでも長くなるだろう。
なぜ佐久間正英さんは死んでしまったのだろうか。おそらく、駆け抜けすぎたのだと思う。あまりに偉大な仕事が私たちの前に残った。氏がいなくなった事実を前に、私は悲嘆することしかできない。佐久間さん、ありがとう、そしてさようなら。
(文=坂口孝則/購買・調達コンサルタント、未来調達研究所株式会社取締役)