コンプガチャの素晴らしさ
ここで私は、各社がコンプガチャをやめた経緯や、当局とのやりとり、今後の法規制――などを解説したいわけではない。その種の内容であれば、どこにでもあふれている。私が述べたいのは、コンプガチャのビジネスとしての凄さだ。
多くのソーシャルゲームは、はじめ無料で提供される。無料といっても、一度始めたゲームをクリアしないと、何か自分が負けた気分になる。私たちは「時は金なり」という価値観に染まって生きている。何かを途中でやめることは、その行為がムダだったと認めることになる。
考えてもみてほしい。住宅モデルルームや自動車の展示場に行き、長時間説明を受けると、それらを買いたくなるのは、説明を聞くことに長時間費やした自分の行為を正当化したくなるからだ。買わなければ、もっとも貴重な時間をたんに浪費したことになる。
ガチャをいったん始めてしまうと、すべてのカードを揃えないと気がすまない。なぜなら、それまでの自分の時間が無駄になるという意識が働くからだ。
消費者に深く考えさせずお金を払わせるビジネスを、「思考停止ビジネス」と呼ぶ。普通であれば、人びとは何かの消費行動を行うとき対象物について
1.比較:目の前の商品が最適かどうか、他の商品と比べて吟味する
2.分析:買おうとしている商品が最適な価格かどうかを調べる
3.検討:そもそも違う商品が良いのではないか検討する
4.購入:商品を購入するべきか検討する
という4つの可能性を模索する。しかし、思考停止ビジネスでは、「対象物の中毒にさせる」「買い手の自制心を失わせる」ことにより、この4つの可能性を抹消する。
その意味で思考停止ビジネスは、まさにビジネスのお手本といわなければいけない。GREEとDeNAが生んだコンプガチャ的なるものは、たしかに新産業だ。両社は人びとを自社サービスの中毒にし、自制心を失わせた。