実際はどうなのだろうか。有名なところでは、AKB48の経済効果が200~300億円だという説だ。確かに、AKB48は11年の音楽ソフト売上が、なんと162億円にも達したという。国内アーティストとしてトップだ。AKB48の音楽ソフトが売れれば、関連グッズも売れる、その物流を請け負う、運送業も盛況になる。あるいは情報通信業も恩恵があり、さらにAKB48を使った企業宣伝が活発になるため、制作スタッフが潤い、書籍など出版物も売れる……と、まさに「風が吹けば桶屋が儲かる」的な波及効果があるというのだ。それが、162億円から、200~300億円まで膨らむロジックだ。
さて、ここから私の考えを述べる。ネット上などでまことしやかに流れている、この「AKB48の経済効果200~300億円」説は、正直いって疑わしいと思う。おそらく、これを述べる人たちは、国の産業連関表を利用して計算しただけではないか。産業連関表とは、統計局のホームページからダウンロードできるもので、どこかの産業で新規需要が生じた際の経済波及効果の予測をするものだ。新規需要のカテゴリーと額により、「運輸」「金融」「IT」など30以上の分野で、直接的・間接的にどれくらいの波及効果(需要)が生まれるのかが、自動的に計算される。そのエクセルの「商業」欄に新規需要に162億円と入れてみた。結果、経済波及効果は245億円と出た。
なんだよ、そのままじゃないか。
これなら誰だってAKB48について経済評論家っぽく語ることができる。乃木坂46だってKARAだって、音楽ソフトの売上高さえわかれば、それなりの「解説」ができることになる。
カギは、”ぼくたちの”アイドルからの卒業
この数字を使ってか使わずか、「AKB48の経済効果200~300億円」といっている人の、何が疑わしいか? それは、代替の作用を考えていないからだ。たとえば、AKB48のCDを買う人がいる。何枚も買い集めれば、そのぶんのお金を捻出するために、何かをケチる。お金は無限ではない。3000円を払うことで、犠牲になり売れなくなった商品があるはずだ。それはほかのアーティストのCDかもしれないし、あるいは夕飯のおかずが1つ減らされるかもしれない。そのマイナスぶんを考慮しないと、本当の経済効果は出ない。そして、「阪神優勝で600億円」「なでしこ効果は1兆円」などの巷間に流布する経済効果値には、そのマイナスぶんが考慮されていない。この意味で、アイドルにかかわる景気のいい経済効果予測はほとんど意味がない。もっといえば、ニュースで流れる多数の経済効果予測は意味がないと私は思う。