さまざまなテレビ番組や雑誌などでもお馴染みの購買/調達コンサルタント・坂口孝則。いま、大手中小問わず企業から引く手あまたのコスト削減のプロが、アイドル、牛丼から最新の企業動向まで、硬軟問わずあの「儲けのカラクリ」を暴露! そこにはある共通点が見えてくる!?
「1200万台分のオーダーが入っているんですよ。ビビりました」
数カ月前、iPhone 5に部品を納入する部品メーカーと話していたとき、そんな驚きの声を聞いた。
「ほう、なるほど。年間1200万台とは、抑え気味な数字ですねえ。アップルもスマホの減速を予想しているのかも」といった私に、「1カ月ですよ」と教えてくれた。たしかにiPhone 4Sも発売3日で400万台を売り切った。むしろ、1カ月1200万台とは、そう考えればまだ少なめなのかもしれない。
先日、iPhone 5発売日にあわせて、六本木近くのソフトバンクショップに予約にいってきた。創業者のスティーブ・ジョブズなきあとの同社の先行きを不安視する声もあったけれど、それが要らぬ心配だったことは、100人以上の行列を見たときに明らかだった。となりのauショップも100人近く並んでいた。
スティーブ・ジョブズは、ソニーを尊敬し、禅にも興味を持っていた。とくにソニーへの愛情は深く、ソニーの工場作業者が着ていた制服を模倣しようとした(デザインは三宅一生氏。結局はアップル社員から反対され、ジョブズは制服導入を断念した)。スティーブ・ジョブズのあのタートルネックシャツは、同じく三宅一生氏によるもので、ジョブズは自分自身のために750枚も(!)オーダーした。あまり語られないことだけれど、ジョブズは三宅一生氏が追求した、美と機能性の両立に共感していた。
しかしそこから幾星霜。
多くのメディアが報じるように、アップルは日本メーカーを抜き、はるか先に行っているように見える。もちろん、iPhoneのすぐれたコンセプト、機能の卓越性、デザインの秀逸さ、そしてスティーブ・ジョブズやティム・クック(現アップルCEO)のカリスマ性抜きに同社の独走は語り得ない。
ただ、ここでは、別観点からも同社の“執念”を述べてみたい。
凄いのはジョブズだけじゃない
アップルに製品を納入している業者が驚くのが、そのコストへの情熱だという。複数の関係者から聞くに、アップルのサプライチェーン部門(日本でいうところの調達・購買・仕入れ部門)は、製品コストが1セントでもあわなければ、すぐさま本国アメリカから飛んでくる。そして、1セントを下げるために交渉を行う。あるいは、1セントを下げるための作戦を練る。その情熱は感動的ですらあるという。
概算で1セント=1円としてみる。1円でも目標コストを超過していれば、それがアップルの利益を数億円単位で左右するから、当然といえば当然かもしれない。