私がかつて自動車メーカーに勤務していたとき、1円の違いは100万円の違いといわれた。1円でも高く部品を購入してしまったら、100万台生産すると、100万円の利益悪化になるというわけだ。それがアップルほどの台数を生産していれば、ものすごい。
さらに、調達先も考え抜いている。かつてiPhone 3Gでは、日本部品メーカーは3割程度を占めていた。それがマイナーチェンジしたときには1割程度に下がっていた。残りは他のアジアメーカーなどが奪取した。どのモジュール単位でシェアを計算するかは専門的な話だけれど、ここでの主旨は、アップルがそのシェアを意図的に変更していることだ。
つまり、先端技術は日本メーカーから購入し、その後、技術力が追いついたところで安価なメーカーに切り替える。ちなみに、さらにモデルチェンジしたときは、ふたたび日本メーカーのシェアが増える。
常に進化を強いられる部品メーカー
日本メーカーとしても、スマートフォンに携わらないと食っていけない。しかし、やっと受注したと思っても、次のモデル(あるいはマイナーチェンジモデル)で受注継続するかはわからない。アップルに納入するメーカーは、常に価格進化を遂げなければいけない。この緊張感のなかで、アップルはiPhoneを高機能にし、そしてコストは抑え続けた。
私は日本自動車メーカーが採用するケイレツ発注が悪いこととは思っていない。長短がある。ただし、モデルごとに都度、最安価な部品を探すことでコストを抑えるメリットは計り知れない。アップルの凄さは、こういうところにも表れている。
そして、部品の組立は、有名なフォックスコンに委託している。同社はシャープ資本提携でも有名になった台湾の電子機器受託生産グループで、従業員は数十万人を抱える。ジョブズは生前にオバマ大統領からアメリカへの工場設立を依頼されても断り、安価な同フォックスコンに委託し続けている。これも、自社から製造部門を切り離し、コストを抑える手段の一つだ。
アップルの栄華はどこまで続く?
もちろん、アップルの独走がどこまで続くかはわからない。誰もが賛美するとき、その対象はほころび始めているといわれる。私は冒頭で、「スティーブ・ジョブズなきあとの同社の先行きを不安視する声もあったけれど、それが要らぬ心配だった」と書いた。もちろん、現時点ではそうだけれど、今後もこのままかはわからない。
私が繰り返すまでもなく、IT・スマートフォンの業界は、立ち止まることが許されない。常に新商品を発売し続け、技術的に他社優位性を発揮し続ける必要がある。私がさきほど書いた部品交渉も、メーカーの切り替えも、フォックスコンに委託しコストメリットを享受することも、なにより圧倒的台数に支えられている。