戦略ポジショニングと組織ケイパビリティ
あらためて冒頭のチャートをご覧ください。このチャートの左側は、ポーターのいう3つの事業戦略です。一方、その右側は、戦略を持続させるための3つの組織能力を提示しています。
左側のポーターの事業戦略は、戦略ポジショニングについての主張です。簡単にいえば、「戦わずして儲けられる市場を見つければ、持続的な競争優位を獲得できる」ということです。ポーターがこの考えを提示した80年代には、企業の戦い方を端的に示していたといえます。
一方で冒頭のチャートの右側は、事業戦略を持続させるために必要な組織能力について述べています。「持続的に組織能力の向上に努めることが、戦略の実現と収益の獲得につながる」という主張です。経営環境の変化が速く、競争状況が激変する2010年代においては、組織ケイパビリティ(企業が保持する組織的能力)の持続的向上が求められているのです。
この2つの戦略ポジショニングと組織ケイパビリティを両立させることが、今日の経営の鍵です。事業戦略の重要性はもちろん変わりませんが、その戦略を持続させるための組織能力の大切さが増してきているのです。冒頭のチャートでいえば、左側の戦略ポジショニングと右側の組織ケイパビリティを融合させていくことになります。
自社の顧客に着目し、顧客の要望を徹底的に探ることで(ニーズ探求)、結果として競合に真似されにくいポジションを獲得できる(差別化)。組織の経験蓄積を重視したコスト削減を持続させることが(経験コスト削減)、競合他社より低いコスト構造を実現できる(コストリーダーシップ)。事業戦略の実現はその実行の試行錯誤の結果であり、小さなトライアルを繰り返すことによって、適切な市場と製品・サービスを選択できるようになる(選択と集中と再選択)、ということです。
今日、競争が少なく持続的に優位性を獲得できる市場は多くありません。それゆえ、たとえ競争優位を獲得できたとしても、それは一時的です。ですから、試行錯誤による組織ケイパビリティの持続的な進化が必要なのです。
このようにポーターの事業戦略を遂行することと、組織能力を持続させていくことは両立します。むしろ、戦略ポジショニングと組織ケイパビリティを融合することが、今日の経営者に求められている思考なのです。
(文=森秀明/itte design group Inc.社長兼CEO、経営コンサルタント)