「資産運用」をテーマにした書籍は巷に溢れている。円高・デフレ時代においては、減らさないこと、つまり預貯金が有効な資産運用の選択肢だった。
しかし、インフレ目標を掲げた第2次安倍政権の誕生によって、実際に円安・インフレ時代が到来すれば、預貯金だけでは資産が目減りする恐れがある。これが転機となり、資産運用の必要性を感じ始める人が一気に増えたのだ。
さらに、2016年1月には日銀当座預金に0.1%のマイナス金利を適用することが決定された。仮に、マイナス金利が個人向けの金融商品にも影響すれば、資産防衛という観点も求められる。
このように、時代を取り巻く金融・経済情勢によって資産運用の考え方は大きく変わってくる。
では、何から始めればよいのだろうか? 『外資系運用会社が明かす投資信託の舞台裏』(ダイヤモンド社刊)は、タイトルの通り、資産運用の中でも特に投資信託を徹底解明。
資産運用会社を投資信託のメーカーと見立て、読者の多くが子どもの頃に経験したと思われる「工場見学」の形で、投資信託がどのように作られ、日々どのように運用されているかという製造過程を明らかにする。
また投資信託の基礎知識とともに、自分に合った投資信託を見つけるためのステップを解説し、初めての資産形成を後押しする。その背景にあるのは、「投資信託は難しくてよくわからない」という不安を払しょくしたいという思いだ。
■運用成績の良い投資信託ほど解約が多い!?
日本の投資信託の特徴のひとつに、「運用成績が良いほど解約が多いケースがある」点がある。
本書の編著者であるドイチェ・アセット・マネジメントは、世界に拠点を置く資産運用会社だが、この点においては海外の運用担当者から「日本の投資信託は複雑怪奇」と思われるようだ。
その背景にはさまざまな「不安」がある。
経済情勢、販売会社や運用会社への信頼度、商品の理解度、投資家自身の判断力に対する不安など、これらの不安が強いと、運用成績の良い投資信託は短期で利益確定されやすくなる傾向がある。
一方、投資信託に対する信頼感が強ければ、投資家は安心して長期で保有することが可能になり、結果的に資産形成にとってもプラスになる。本書では、投資家がむやみ不安に駆られることのないよう、投資信託の実状を明らかにしている。
たとえば、運用会社にはどんな部署があり、どんな仕事が行われているか。投資信託の新規設定、運用中、償還の際に各部署がどのような責任を果たすか、といったことがわかれば、投資家は臨場感を持ってお金の流れが理解できるはずだ。
また、本書ではインフラ株式の運用担当者がアメリカのテキサスで迷子になったエピソードなども披露されている。運用会社で働くスタッフの日常を知ることも、投資信託の全体像を把握する助けになるだろう。もちろん、豊富なリサーチデータをもとに、投資信託の残高推移や資金流出入など、近年のトレンドや、NISAやDCの制度変更についても紹介されている。