ビジネスでは「説明はロジカルに」と言われることがあるが、そもそも論理的とはどういう状態を指すのか。それは次の2つの条件を満たした状態だ。
1.根拠があること
2.根拠と結論を結ぶ論理が正しいこと
プレゼンで「この商品は売れます!(もしくは、売れません!)」とだけ言っても説得力はゼロだろう。
相手が納得できるだけの「根拠」を持ち、それを「正しい論理」でつなげることで「説得力」が生まれるのだ。
では「正しい論理」とは何か?これはさほど難しい話ではない。例を挙げてみよう。
「わが社に必要なのは、指示待ち人間ではなく自発的に動ける人間だ。だからこそ、指示待ち人間を大切にするべきだ」
この言い分が一見しておかしいことはわかるだろう。正しい論理でつなげるならこうだ。
「わが社に必要なのは、指示待ち人間ではなく自発的に動ける人間だ。だからこそ“自発的に動ける人間”を大切にするべきだ」
このように、「根拠」と「結論」がつながっていることで、はじめて「正しい論理」になる。そして、この説得をより強力にするのが本書で紹介されている8つの説得のパターンだ。
1.同等論法 2.なおさら論法 3.反対論法 4.グループ論法
5.結果論法 6.原因論法 7.分割論法 8.証言・証拠論法
たとえば、「同等論法」は、説得の論理をつくりあげるための基本中の基本で、「同じもの」を引き合いに出して、話に説得力を持たせる論法だ。
上司から納期を「三日」と言い渡された仕事で、どう考えても「四日」は欲しい。そんなときに「三日はちょっと厳しいので、もう四日にして頂けませんか?」と言っても相手は納得してくれないだろう。
しかし、「前回、同じ仕事をやったとき、どう急いでも四日かかりました。なので、四日にして頂けませんか?」と言えば、説得力はぐんと増す。「前回と同じ仕事」という、「同じもの」を引き合いに出しているわけだ。
このように、それぞれの論法には説得力を持たせる効果がある。ひとつひとつは難しくないので、知っておいて損はないだろう。
■「説得術」は実戦でこそ磨かれる!
では、実際にどんな場面でどんな論法を使うのがベストなのか。
その点については、残念ながら「実戦の中での経験によらなければならない」と著者は述べる。また、キケロ―自身もそのような主旨の言葉を残している。
なぜなら、先に挙げたように、「正しさ」というものはさまざまな要因でその姿が変わる。したがって、一概に「このときにはこの論法がベスト」とは言えない。
たとえば、「誰を説得するか」で、効果的な説得方法は変わってしまうだろう。他にも、説得するためのテーマや目的には、ひとつとして同じものがない。それらが掛け合わされていけば、正解のパターンは無限にあると言える。
だからこそ、論法を頭に入れた上で、日々の議論の中で「相手のこの言い分の背後にはこういう論法があるな」「今の自分の言い分は、こういう論法に基づいている」ということを意識していくことが大切なのだと著者は述べる。
ただ、そうは言ってもすぐに実践するのは難しい。そこで、本書では「説得が上手い人を真似てみる」ということを勧めている。
キケロ―の説得術の上達のためには以下の3つのステップがあるという。
1.説得の上手い、見習うべき人を探す
2.その人物の説得のもっともすぐれた部分を探す
3.実際に説得の場でそれを真似してみる
特に重要なのは2つ目の「その人物の説得のもっともすぐれた部分を探す」だ。
「どんな根拠を持ち出しているか」「どんな論理で根拠と結論を結びつけているか」「どんな口調か」「どのように聞き手の感情を煽っているか」など、「説得」のポイントになる部分を意識して聴いてみるのだ。
すると、「あの人は“なおさら論法”をよく使っているぞ」とか「相手があの論法で攻めてきたのを、上手に論理の穴を突いたぞ」といったことに気付けるはずだ。そうやって「説得」が上手い人を分析し、自分なりに真似をするのである。