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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第21回

“無能”記者でも大手新聞社長になれちゃう!?だが、不倫にしくじり窮地に!

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 しかめ面の顔を上に向け、ソファーに身を埋めていた村尾は突然、差し込むような腹痛に襲われた。顔を歪め、下腹部をなでると、少し治まった。しかし、鈍痛は消えず、昔の記憶が鮮明に蘇った。

●記事が書けず、出社拒否症一歩手間に

 「そうだ。昔、似たような腹痛に苦しんだ時期があったな。あの時と同じ感じだ」

 村尾が5年の支局勤務を終え、東京本社経済部に戻ったのは昭和50年(1975年)春。通産省記者クラブで、キャップだった富島(鉄哉)前社長と出会い、持ち前の胡麻すりで滅私奉公、親分子分の関係を築いた。だが、村尾の記者としての能力が中レベル以下なことは誰の目にも明らかで、通産省クラブに半年もいれば、経済部デスクの目はごまかしようもない。1年後には経済部失格の烙印を押され、他部に出す人事案が持ち上がった。富島が出身母体の旧日々政治部の先輩に働きかけ、政治部に異動になった。1年後のことだ。

 政治部では官邸記者クラブに所属したが、鬼門のようなデスクの配下になってしまった。この時の人事では、経済部で富島が次長に昇進したが、政治部でも旧日々出身の政治部エースで、富島と同期の源田真一が順当に出世の階段を上った。源田は官邸記者クラブキャップからの昇格だったこともあり、官邸詰めの記者に対してはとりわけ厳しい姿勢で臨んだ。しかし、好き嫌いで部下への対応を変えるような人物ではなかった。当時、源田が次代の日亜を背負って立つと目されていたのはそのためだ。

 源田の厳しさは、記者をレベルアップさせようという純粋な熱意だった。だが、得てして能力のない記者のほうは「なぜ俺だけが苛められるんだ」と逆恨みしたりする。村尾は逆恨みこそはしなかったが、「出社拒否症」一歩手前の精神状況になってしまった。午前中に開かれる官房長官の記者会見をまともに原稿にできない村尾は、会見当番のたびに、夕刊デスクが源田だと、厳しく叱責された。夕刊デスクが源田の時、村尾は朝起きると、腹痛を起こすようになった。マングースに睨まれたハブのようなものだったのだろう。

 この時、官邸クラブの同僚として村尾を助けたのが、現在、常務論説委員長で1年先輩の青羽岳人だった。村尾が鵠沼の自宅から高輪のマンションに住んでいた青羽に電話すると、面倒くさそうにしながらも、代わりに記者会見を処理してくれた。長官の会見は夕刊一面トップになるようなこともかなりある。取材の嫌いな青羽には、取材せずに目立った記事を書ける会見の処理は好都合だった。村尾と青羽の腐れ縁の始まりだった。

 いずれにせよ、村尾が政治部でも評価されるような実績を上げられないのは明らかだった。村尾自身にも自覚があり、親分の富島に泣き付いた。富島の勧めで、新聞社の業界団体である日本報道協会の研究部門・日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)へ出向、心身症にならずに済んだのだ。昭和52年春だった。

「あの時の腹痛は、出向した途端に治った。やっぱり、精神的なものだったんだな。ジャナ研の人気に陰りが出ていたから実現したが、あれから俺の人生に追い風が吹き始めた……」

 村尾は鈍痛のする下腹部をなぜながら、追想を続けた。

 「2人の女に出会い、露見せずに今も付き合いながら、ここまできた。もう、俺は怖いものなしなのに、なんでまた腹痛なんだ」

 村尾の苛立ちは募るばかりで、鈍痛も消えなかった。その時だ。

●愛人と腹痛

 「ピンポン」

 インターフォンが鳴り響いた。再び村尾に差し込むような腹痛が襲った。すぐにカギを回す音がした。由利菜が帰ってきたのだ。しかし、リビングからエントランスは見えない。

 エントランスから5mほど廊下を進むと、左手にリビングのドアがある。その先で廊下は右に直角に曲がり、左手にベッドルームが2つ並んでいて、突き当たりがメインのベッドルームだ。廊下の反対側には、トイレやバスルームが配置されている。

 村尾を襲った腹痛が少し治まると、リビングのドアが開いた。そして、身長155cm前後、痩せ型で丸顔、マッシュルームカットの由利菜が現れた。濃紺のスーツ、白いブラウスの出で立ちで、顔のメイクも決まっていた。

 「あなた、やっぱり帰っていたのね」

 ソファーで顔を歪めている村尾を見つけると、由利菜はソファーのほうに進んできた。肩にかけていたクリーム色のレディースビジネスバッグを床に置くと、村尾の隣に座った。

 「どうしたの? どこか痛いの?」

BusinessJournal編集部

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