“無能”記者でも大手新聞社長になれちゃう!?だが、不倫にしくじり窮地に!
ブランデーグラスを取り上げ、グラスを転がしながら、隣の村尾に目をやった。
「急に腹が痛くなってね」
「いつから、そうなの?」
「ほんの5分くらい前からだ」
グラスの中で転がしていたブランデーをなめるように飲み、しばらく由利菜は記憶の糸を辿った。そして、もう一度、村尾を見つめた。
「今まで、そんなこと、一度もなかったわよね。あなた、どこか、悪いんじゃないの?」
村尾は真顔で心配する由利菜に困惑した。
「由利菜に『君が原因だ』などと言えるわけないよ。困ったな」
村尾は内心、そう思い、由利菜の視線を避けるように目を瞑り、
「大丈夫さ。間欠泉のような差し込みがあるが、すぐに治る。鈍痛は残るけど……」
と、消え入るような声を出した。この辺が村尾の本能なのだ。
「お医者さんに行くこともないと思っていいのね」
「そうさ。その必要はないよ」
「ならいいけど、今日の大都との合併交渉、うまくいかなかったの?」
昨晩、2人だけの閨房で、由利菜の耳元で企業秘密を打ち明けていたのだが、村尾はそれを忘れていた。不意を突かれたような由利菜の質問に、はっとした。
「いや、来年4月1日合併で決まったよ」
「それなら、よかったじゃないの。でも、お腹が痛いなんて……。どうしたのかしらね」
首を傾げた由利菜はブランデーグラスをテーブルに置くと、村尾の下腹部に手を当てた。
「本当に心配いらないさ。それより昨日の話、考えてくれた?」
由利菜の優しげな素振りに、村尾は少し図に乗ってしまった。
「何?」
村尾の言葉にカチンときた由利菜は目を吊り上げた。
「ここに引っ越してくるな、っていう話? どうなの、その話なの?」
村尾はうろたえ、言葉が出なかった。そして、また、腹痛が走り、顔を歪めた。
「そんな顔をしても駄目。あなた、大したことないんでしょ。騙されないわよ」
「違うんだ。君、誤解だよ、誤解だよ」
村尾は肩に腕を回し、抱き寄せようとした。しかし、由利菜は村尾の腕を払いのけた。
「あなた、昨日と同じことをしようとしても駄目は駄目なの」
「そんなつもりじゃないよ」
昨晩、この話題になったとき、村尾は由利菜を抱き寄せ、ディープキスをした。そして、抱き抱えたまま、ベッドルームに連れて行き、2人は3年ぶりの情事に溺れた。しかし、1日経ってしまえば、由利菜がそんな村尾の手練にはまるはずもなかった。
「ごまかしても駄目! 今までは、あなたのその場しのぎにお付き合いしてきたけど、もうそんなお遊びに付き合う気はないの」
「本当に、そんなつもりはないんだ。君と別れるなんて考えたこともない。信じてよ、ね」
由利菜が矛を収めることはなかった。
「私がニューヨークに出るとき、戻ったらまた一緒に住むって約束したでしょ。もし、私たちが結婚していたら、もうすぐ銀婚式を迎えるのよ。わかっている?」
(文=大塚将司/作家・経済評論家)
※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。
※次回は、来週3月9日(土)掲載予定です。
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